「キャリアはある意味、行き当たりばったりでいい」――キャリア教育を再考する(3/4 ページ)

» 2012年07月25日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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キャリア形成は「計画のあるなし」ではなく、「想いのあるなし」が要

 私は研修で「キャリアはある意味、行き当たりばったりでいい」と言っています。それくらいオープンマインドでいた方が、キャリアはどんどん開くからです。想像のつく範囲で、こぢんまりと計画を立てて、それで安心安住することは、結局、自分の可能性を狭めることにつながりかねません。

 「想定の範囲内に収まっている自分の未来」など何が面白いか、です(ポジティブな意味で)。「5年後の自分はどうなっているのか予想がつかないのが楽しみ」というくらいの人生の方が健全であるとも思います。

 しかし、このことは「無防備に漫然と運任せにキャリアを過ごしてよい」と言っているのではありません。力強いキャリア形成には、決定的に「目的」が必要です。しかし、いきなり目的を明確に得ることのできる人はそう多くありません。ですから、まずは「想い」を持つことから始めればよいのです。

 「想い」とは、“方向性と像”です。当初は漠然とでも構わないので、自分が進みたい方向性を持つ。その方向性でいろいろと行動で仕掛けると、だんだんその先の像(目標イメージ)が見えてくる。そして、その見えてきた像は方向性を修正し、強化する。すると、像がまた、より鮮明になってくる。そして、そのうちに自分の中でそれを目指す意味も伴ってくる。

 「目的」=「方向性×像」+「意味」という分解式を私は使っていますが、これらの要素は、互いに連鎖しながら、あいまいから明確化の流れを作っていく。この式の中で、最初の重要な一歩は、方向性=「想いを持つこと」です。

 評論家の小林秀雄は『文科の学生諸君へ』の中でこう述べています。「人間は自己を視る事から決して始めやしない。自己を空想する処から始めるものだ」と。

 キャリアをたくましくひらくためには、小林の言うように「己を空想(妄想でもいい)すること」です。その空想が、現実の自分をいかようにでも引っ張り上げてくれるからです。

 また、その空想を実現化しようとする時、自分の中で、過去につちかった知識・技能を新しい角度で再構築しようとし、不足している知識・技能をどんどん吸収していこうとする意欲がわき起こる。この未知の世界へ開いていく能動的なダイナミズムこそ、キャリア形成の核心部分の1つです。

 こうした部分を欠いたまま、自己分析やプランシートの作成それ自体を目的化して作業させる。そんなキャリアデザイン研修が増えている点を、私は指摘したいのです。

  • 自分の「想い」はどこにあるか
  • 「想い」を描くにはどうすればよいか
  • 「想い」を体現するとはどういうことか
  • 「想い」を仕事に変えている人は周囲にいるか
  • 個人の「想い」と、組織の「想い」をどう重ねることができるか……など

 こうした「想い」に関することを研修プログラム化することは、非常に難しい作業ですが、ここを正面から照射しないものは、やはり不充足プログラムだと思います。

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