原発事故の“愚かさ”を、どのように表現すればいいのかさっぱり分からなかった、3.11報道(3)(3/4 ページ)

» 2012年07月25日 08時02分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

破壊された財産

烏賀陽:福島第一原発の事故で、破壊された一番の財産は「コミュニティ」ではないでしょうか。住民は仮設住宅に移って、地元とのつながりが絶たれました。学校、同級生、ご近所、親戚といったつながりが解体し始めた。さらに、放射能被害を巡って「敵」「味方」の対立が生まれた。

 「政府が言うんだから、故郷に帰ればいいんじゃないか」「いやいや、そんなところに帰れない」という対立が、住民の間で起きている。赤の他人ならいいけど、お爺ちゃんと息子夫婦だったりするんですよ。お爺ちゃんは故郷に帰りたい。が、嫁は子どもを帰したくない。けんかになる。そんな家庭争議が起きている。

 学生時代の同級生の間では「お前の家は30キロ圏内だから金が出ていいな。放射線量は変わらないのに、ウチは30キロ圏外だから、国からお金が出ない」といったことでケンカになる。

 地縁、血縁を機能させていたコミュニティネットワークがズタズタになっているんですよ。みんながケンカをしている。「2年で帰る派」と「絶対に帰らない派」の対立はもう戻らないでしょうね。彼らの間では、30年、40年解決できない対立点が生まれてしまった。人間関係が壊れて行くのを見るのが、一番悲しいですよね。

相場:ですね。

烏賀陽:東京で生活をしていて足をねんざしたら「近所に病院はないかな?」とネット検索する人が多いと思います。特に若い人であれば。でも原発事故から避難している人たちは、そんなことをしない。どこに行けばいい医者がいるのか、という情報は友だちに聞けば分かるから。だからインターネットで検索しない。あるいは、子どものころから行っているなじみの病院に行く。そうやって、インターネットがいらない世界で生きていたのに、ネットワークが破壊されてしまった。

 震災直後、どこに逃げていいか分からないので、群馬県の親戚のところに避難している人がいました。福島からその市に避難しているのは数家族しかいないので、市役所に被災者をケアするという発想がない。担当職員はいるんですか? と聞いたら、「います!」と市役所の人は胸を張るんですが、17時で帰っちゃう(笑)。夜、子どもが明日学校に持って行く教材がないことに気づく。あわてて買いに走ろうにも、どこで売っているか分からない。市役所に電話をすると誰もいない。

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