庵野秀明館長「特撮博物館」から考える特撮とアニメの関係アニメビジネスの今(4/5 ページ)

» 2012年07月24日 08時00分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

特撮のジャンルと代表的作品

 特撮にはクリーチャー・モンスターもののほかにも色々なジャンルがあるが、それらの作品を次表にまとめてみた。

海外特撮ジャンルと代表作品(筆者調べ)

ジャンル 代表作品
未来社会 『時計じかけのオレンジ』『ウエストワールド』『ブレードランナー』
タイムパラドクス 『タイムマシン』『ファイナルカウントダウン』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
アドベンチャー 『海底二万哩』『地底探検』『ミクロの決死圏』『パイレーツ・オブ・カリビアン』
異世界ファンタジー 『ネバーエンディング・ストーリー』『ハリーポッター』『ロード・オブ・ザリング』
ゴースト/ホラー 『エクソシスト』『ゴースト・バスターズ』『キャスパー』『スリーピー・ホロウ』
ヒーロー 『スーパーマン』『バットマン』『スパイダーマン』『X-メン』『アベンジャーズ』
ロボット 『ターミネーター』『ロボコップ』『リアルスティール』『トランスフォーマー』
地球滅亡 『地球が静止する日』『人類SOS』『デイ・アフター・トゥモロー』『2012』
『2001年宇宙の旅』

 ジャンル的に重複している作品も多く、例えば『ターミネーター』はロボットのくくりに入っているが、同時に未来からの処刑人という意味ではタイムパラドックス、救世主を狙うという意味では地球(人類)滅亡、また『ターミネーター2』からはヒーロー的要素も入ってくる。「何でもあり」の特撮作品の性質を考えれば、むしろジャンル的に重なっていない作品の方が少ないのではないか。

 前表でカバーされていないものに、今や一大勢力となった「宇宙もの」がある。これに関しては1936年のスペース・オペラ『フラッシュ・ゴードン』を皮切りに、1950年代における『月世界征服』(1950年)を始めとする一連のジョージ・パル作品から『禁断の惑星』(1956年)、『猿の惑星』(1968年)などを経て、『2001年宇宙の旅』(1968年)で新時代の幕開けを迎える。

 『2001年宇宙の旅』は世界各国で興行収入のベストテンに入ったこともあり、それまでお子さま向けと思われていた特撮・SF映画を芸術の領域まで高めるきっかけになった。そして、そこに登場したのが『スター・ウォーズ』(1977年)である。これについては語るまでもないが、『スター・ウォーズ』によって特撮・SFといったジャンルがメインストリームに位置するようになったのである。

地球侵略の予感?

 一方、「インベーダー」「地球侵略」「異星人・エイリアン」などのジャンルも根強い。ジョージ・パルの『地球最後の日』(1951年)や『宇宙戦争』(1953年)、今年リメイク作品が作られる『遊星よりの物体X』(1951年)、スティーブン・スピルバーグの『未知への遭遇』(1977年)と『ET』(1982年)、リドリースコットの『エイリアン』(1979年)で一大ブームとなり、1980年代以降コンスタントに制作されるようになったが、特にここ数年一段と数を増やしつつあるのが目につく。

 次表は2010年以降に公開された「インベーダー」「地球侵略」「異星人・エイリアン」作品だが、2011年以降は特に目立っている。まるで、地球侵略の予告を行っているようだが、UFO関連のニュースが頻繁に伝えられる欧米諸国ではこれらの映画が現実感を持って受け入れられていることの証明だろう。

海外「インベーダー」「地球侵略」「異星人・エイリアン」作品

年度 タイトル
2010年 『第九区』
2011年 『スーパーエイト』『トランスフォーマー ダークサイドムーン』『宇宙人ポール』『スカイライン-征服-』『世界侵略: ロサンゼルス決戦』『カウボーイ&エイリアン 』『モンスターズ/地球外生命体』
2012年 『バトルシップ』『メン・イン・ブラック3』『遊星からの物体X ファーストコンタクト』『プロメテウス』

特撮とアニメが持つ共通の歴史

 日本の特撮に関してはぜひ「特撮博物館」をご覧いただきたいが、その歴史を見るとアニメと同じような道をたどってきたことが分かる。

 アニメも特撮も海外から入って来た技術、文化だが、両者ともにその受容の中で極めて日本的な変容を遂げた。アニメの場合、手塚治虫が日本初の30分テレビシリーズ『鉄腕アトム』を作る際に言った、「『アトム』はアニメーションではなくアニメです」(杉井ギサブロー『アニメと生命と放浪』)という言葉に代表されるように、スケジュールや予算の制約のために大胆な制作の省略化、簡素化が行われた。

『ゴジラ』

 同様に『ゴジラ』から始まる日本の特撮でも、先行するハリウッドスタイルのストップモーション(人形を使ったコマ撮り)ではなくスケジュールと予算を圧迫しない着ぐるみ方式が採用された。そのため、『ゴジラ』については海外から、「ハリーハウゼンの巧緻(こうち)なアニメーションに比して、『100ポンドのゴジラ・スーツを着こんだみすぼらしい怪獣』との酷評も受けている」(「世界大百科事典」森卓也)との評論もあった。しかし、アニメもチープで粗悪と言われながらも、止め絵は歌舞伎の様式を思わせるなどという評価を獲得したように、着ぐるみを主体とした日本の特撮も独自の世界を創り出すことで多くのファンに支持されるようになった。

 特撮の本家ハリウッドでも日本の特撮を好きなクリエーターは多く、フランシス・コッポラ、スティーブン・スピルバーグ、マーチン・スコセッシ、ジェームズ・キャメロン、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートンといった蒼々たる監督がゴジラの愛好家であり、多くの影響を受けたと述べている。特撮における簡素化、省略化が逆に評価される表現スタイルをもたらしたという意味において、円谷英二は手塚治虫の先行者であったのだ。

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