感情と理性、どちらに訴えれば消費者に響く?(2/2 ページ)

» 2012年07月24日 08時00分 公開
[松尾順,INSIGHT NOW!]
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理性に訴えかけるマーケティングの限界

 一方でスバルブランドを持つ富士重工業、岡田貴浩氏(広告担当)は、宣伝会議の座談会で「ぶつからないクルマ?」のキャッチフレーズで訴求した運転支援システム「アイサイト」について次のように述べています。

 「このキャッチフレーズでは端的に機能を訴求しました。実は最近、情緒価値だけではお客さまが動かなくなったと感じているからです。例えば、キャンプに行くのも、4WDではなく軽自動車でも構わないと思う方が増えている時代、『この車に乗って、どこにいこう……』という世界観で伝える表現は響かなくなっています」

 自動車は高額の耐久消費財であり、本来、十分に比較検討してブランドが選択される商材です。しかし、とんがった特徴のあるクルマが少なく(特に日本車は)、規格面での差異が小さいため、情緒的価値を付加するしかない、すなわち感情訴求をこれまでは重視するしかなかったということでしょうか。

 ところが、ステータスあるいは横並びといった他者を意識した選択ではなく、自分なりの独自の価値観に基づいてブランドを選択する人が増えてきた今、企業が一方的に押し付ける世界観にはなかなか共感してくれなくなったものと考えられます。

 幸いアイサイトの場合、まだ競合他社が採用していない最先端の技術であり、明確な差異を示すことができたため、「購入すべき理由」として理性的な訴求が効果的でした。

 しかし今後、競合他社が類似の技術で追いつき、機能上においては差異がほとんどなくなった時には、やはり感情訴求の重要性が増してくるでしょう(もちろん、どうやったら感情レベルで消費者の心をつかむかというのは難しい課題です)。

 先日の記事で示した通り、感情レベルで消費者の心をつかむことと同時に、理性的なブランド選択に資する購入すべき理由をも示すことが重要です。

 従って、対消費者コミュニケーションにおいては、状況に応じた最適な感情訴求と理性訴求のベストバランスを模索しなければならないと言えるでしょう。(松尾順)

※この記事は『宣伝会議』(2012年7月15日号)、『販促会議』(2012年7月号)を参考にしました。

 →松尾順氏のバックナンバー

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