なぜマスコミは“事実”を報じなかったのか新連載・さっぱり分からなかった、3.11報道(1)(6/7 ページ)

» 2012年07月20日 08時02分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

相場:その後も、メディアが次々に取材にやって来たそうです。そして「今のお気持ちは?」と聞くわけですよ。ある被災者は「他に聞き方はないのか!?」と怒鳴ったら、若い女性記者がその場で泣き始めたそうで。しかも違う社の女性3人が(笑)。

烏賀陽:そりゃいくら何でも幼稚すぎる。マスコミを「社会正義の体現者」と考える人はさすがにもう少ないとは思いますが、それでもまだ「拙劣」「信用できない」とまでは思われていませんでした。それが、東日本大震災後、取材者どころかニュースや記事まで信用されなくなった。「大本営発表タレ流し」とまで言われている。明らかに3.11で「権威崩壊」が起きた。

 若い記者の取材のやり方は拙劣だと思うのですが、その反面、かわいそうだなあとも思っています。昨日まで「地元出身の横綱が1日郵便局長で来ました」みたいな記事ばっかりやらされていた人を、何の訓練もなく、人間の生死が衝突している火事場に放りこまれたわけですから。新聞社やテレビ局も「行けばなんとかなるだろう」と思って、放り込んだのでしょう。誰も、3.11のような戦争級のクライシスに備えた記者の熟成、訓練なんてしていない。

 阪神・淡路大震災を経験した記者は、現在デスクレベルのはず。彼らが現場に向かう若い記者に、何かひとこと言ってやるべきだった。人の家がつぶれ、職を失い、何百人単位で亡くなっている……そこは戦場と同じだと。「死者への敬意」や「家族や家を失った人の心の痛み」「それを記者も共有しながら進め」といったことを言って記者を送り出すべきだった。だが、していないんです。3人も4人も同じことしているんですから。デスククラスもそういった戦争級クライシス取材の作法が分からない。日本は66年間戦争を経験していないのですから。

 新聞社とテレビ局に共通していると思うのですが、人材を育てていこうという意欲や意思を失っているのではないでしょうか。実際、現場にいる記者に話を聞いても、若い記者は「何も教えてもらっていない」と不満を言う。管理職年齢は「あいつらに教えても覚えようとしない」とブツブツ言っている。「きつく教えると辞めてしまうので、辞めないために優しくしてるんだ」と、ある管理職の人は言っていました(笑)。

 でも管理職と現場の記者に会って話を聞くと、両方とも「いい記事が書きたい」という意欲はある。3.11報道も、望んでああいう記事を書いているのではなくて「何でこんなことになってしまうのだろう」と思いながら、どうしようもなく落ちていってしまっている。そこには何か、管理職と現場の記者が気づかない、今まで不問にしてきた何か構造的な問題があるんだと思うんですよ。それを解決しないと、何回でも繰り返されるでしょうね。

相場:なるほど。

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