私たちは何を革命と呼ぶのか?ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)

» 2012年07月16日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]
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IT革命は革命か?

 実はちきりんはIT革命について、つい最近まで、なぜこれを「革命」と呼ぶのかが分かっていませんでした。火や電話と同様に画期的な技術、ツールであることは確かでしょう。でも、便利になっただけでは革命とは呼ばれないはずです。火革命という言葉がないのは、火が権力の移行(逆転)を起こしていないからです。

 例えば、ネットの普及によって旅行代理店や本屋など流通・仲介業の多くがすたれようとしています。でも、そんなのは「権力の移行」とは言い難いですよね。だって、そもそも今まで流通・仲介業者が権力者であったわけではありません。

 ネットで起業がたやすくなったので、「資本家から起業家に権力が移行するのか?」とも考えましたが、これもいまひとつです。

 なぜなら「起業家が今まで抑圧されている層であったか?」というと、決してそんなことはないからです。日本は昔から松下幸之助氏や本田宗一郎氏などのすばらしい起業家が生まれている国であり、「IT革命前は起業家は抑圧されていて成功できなかったが、IT革命により権力をつかむことができた」わけではありません。

 IT革命というからには、「今まで権力を持っていた層が崩壊し、反対に、抑圧されていた層が権力を握るはず」なのですが、「何から何に権力が移るのか」という点が上手く言葉にできずもやもやしていました。

 でも、最近それがようやく明確になってきました。ITもやはりIT革命と呼ばれる条件を備えています。それは確かに「権力の移行」を起こそうとしています。今まで権力を持っていた層が崩れて、今まで抑圧されていた層に権力を移すことになるでしょう。これはまさにIT革命と呼ぶべきなのです。

 具体的に「何」から「何」に権力が移行するのか、という点については、それぞれの人が自分の言葉で表現してみてください。

 興味深いのは、今は自分がどちら側にいるのかさえ、分かりにくい時代だということです。チャタレイ夫人の時代なら、自分が貴族なのか、そうでないのかは明確でした。しかし今はこの革命で没落する人と、新たな支配層につく人は見た目では区別さえつきません。

 当時の貴族たちは、庶民が暴力をもって貴族制を打倒する革命については怖れていましたが、まさか新しい技術や産業の勃興が、権力を貴族層から奪っていくとは思っていなかったでしょう。

 しかし現在は、権力側にある人の中にも「IT技術によって権力の移行(剥奪)が起こるかもしれない」と恐れる人は少なくありません。だからこそ彼らは抵抗しています。私たちは今まだこの革命の渦中におり、IT革命はまだ完遂していないのです。

 フランス革命、ロシア革命のような政治的で暴力的な革命のほかに、産業革命やIT革命のような「技術が起こす権力層の移行」という革命が起こりうるのは、とても興味深いことです。私もこの革命の先行きをとても楽しみにしています。

 そんじゃーね。

著者プロフィール:ちきりん

兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『自分のアタマで考えよう』『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』『社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」。

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