利用数100万件突破――パーク&ライドとスカイツリーの意外な関係神尾寿の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年07月11日 12時12分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 なぜ実用化が大変だったのか? それには理由がある。当時、SuicaやPASMOの利用履歴情報を"鉄道事業以外に使用する"という前例がなく、その運用スキームや条件整備も行われていなかった。海外で広がるパーク&ライドそのものに関心は持ってもらえても、SuicaやPASMOにとっては想定外の使い方となる駐車場サービスとの異業種連携に、あえて乗り出そうという雰囲気にはなっていなかったのだ。

東武鉄道がパーク&ライド実現に手を挙げた理由

 その時、鉄道会社として交通ICパーク&ライドの実現に最初に手を上げたのが東武鉄道だった。当時、交通ICパーク&ライド実現を推進した今度氏は、その理由について次のように話す。

 「実は2008年の時点で、我々(東武鉄道)には『東京スカイツリー』を実現・成功させるという大きな目標がありました。その一環として、スカイツリーにクルマではなく鉄道でお越しいただくことを考えなければならなかった。そこで最寄り駅でクルマから鉄道に乗り換えるパーク&ライドの構想はとても興味のあるものでした」(今度氏)

 そして2008年4月20日、幸手駅に隣接するタイムズ幸手駅前駐車場で交通ICパーク&ライドが始まった。岩渕氏は当初「約90台の駐車場が埋まらないだろうと思っていた」というが、ふたを開けてみればパーク&ライド効果で駐車場の利用が急増。さらにPASMO電子マネーの利用率が、パーク&ライド開始前の20%弱から一気に上昇し、平均55%の電子マネー利用率になるという副次的効果も得られた。

パーク&ライド対応の自動精算機。システム自体はサービス開始当初と同じだが、利用方法を解説するステッカーが貼られるなどして使いやすくなっている。このようなサポートの充実は、パーク&ライドを開始してから蓄積されたノウハウだという(クリックすると拡大)

 「交通ICパーク&ライドを実施すれば(交通ICカードの)電子マネー利用率が高くなるだろうとは考えていましたが、幸手で得られた実績は想定以上でした。この定量データが得られたおかげで、パーク&ライドの直接的な送客効果だけでなく、電子マネーの利用活性化にもつながることがわかった。これにより、その後の他の鉄道会社との交渉がとてもスムーズになりました」(岩渕氏)

 2008年当時は電子マネーの普及拡大期であり、交通系電子マネーを展開していた鉄道会社にとって、"駅ソト"での利用活性化は重要なテーマだった。パーク&ライドは電子マネー利用率の向上に大きく貢献することが証明されたことで、鉄道会社の姿勢もより前向きに変化していったのだ。

全国に拡大したパーク&ライド。利用数がついに100万件に

 東武鉄道とパーク24の連携により始まった交通ICパーク&ライドは、幸手駅での成果をもとに全国の鉄道事業者に拡大。2012年現在では、鉄道事業者22社104駅に展開されており、対象駐車場も110カ所にのぼる。パーク&ライドの利用モデルも広がっており、郊外から都心部への移動のほか、東京・お台場で実現した人々の地域回遊を促すコンパクトシティ型パーク&ライドや、特定の幹線道路の渋滞緩和を目指す地域交通問題解決型パーク&ライドなどの新たな形も登場してきている。サービス開始から4年で、交通ICパーク&ライドは、地域交通と街作りに貢献するモビリティサービスの1つに着実に成長してきているのだ。

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