本当にできないの? 鉄道ファンが笑う、大阪の新ルート杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)

» 2012年07月06日 08時01分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

軌間も電化方式も違う路線が相互乗り入れ?

 自治体が掲げた構想について、なぜ鉄道ファンが「無理だ」と言えるのか。それは、四つ橋線と南海電鉄の路線規格が異なるからだ。

 まず軌間、線路におけるレールの間隔が違う。大阪市営地下鉄の軌間は1435ミリメートルで東海道新幹線と同じ。しかし南海電鉄は1067ミリメートルで、JR在来線と同じ。相互乗り入れを実施する場合、軌間が同じという原則がある。軌間が同じなら、既存の車両をそのまま直通できる。軌間が違う場合は、両方の軌間に対応した線路に改造する必要がある。

 さらに大胆な方法として、「改軌」という方法もある。かつて京成電鉄が都営地下鉄浅草線と京浜急行電鉄に乗り入れるために、全線の軌間を1372ミリメートルから1435ミリメートルに作り替えた。これを京成電鉄は運休せずに、時間をかけて実施した。南海電鉄と四つ橋線だけの乗り入れなら、このほうがスッキリする。

 それでは、四つ橋線を1067ミリメートにするか、南海電鉄を1435ミリメートルにするか。南海電鉄の路線網のほうが長いから、四つ橋線を工事すればいい……となりそうだ。しかし北側の新大阪連絡線は阪急電鉄だ。阪急は自社の既存路線と合わせたいから、1435ミリメートルで作りたいだろう。

 そうなると、四つ橋線と新大阪連絡線を南海・阪急の規格で乗り入れ可能に改造した方がいい。

 線路を改造したケースとして、これまでに3つの実例がある。小田急電鉄と箱根登山鉄道では、箱根登山鉄道のほうが軌間が広い。そのため、小田急の電車を走らせるために、内側にレールを追加した。これを3線軌条という。秋田新幹線も、東北新幹線に乗り入れる「こまち」と、在来線の電車が共用する区間が3線軌条になっている。

 特殊な例だが、京浜急行の金沢八景と神武寺の間も3線軌条だ。京急電鉄の軌間は1435ミリメートル。しかし、金沢八景に鉄道車両工場があり、ここから1067ミリメートルの電車を出庫させて、神武寺からJR横須賀線に送り込む。また、青函トンネルも新幹線と在来線の3線軌条で準備が進められている。

青函トンネル内の3線軌条

 だから四つ橋線を3線軌条にするという構想は技術的に可能だ。しかし、もうひとつ解決しなくてはいけない問題がある。電力の供給方式だ。

 南海電鉄は架線集電方式だ。電車の頭上に電線を張り、そこにパンタグラフを当てて電気を取り込む。一方、地下鉄四つ橋線はサードレール方式を採用している。これは車輪が使う線路の外側に、電気を通すための3番目のレール(サードレール)を設置する。電車から終電用の足を伸ばしてサードレールに当て、電気を取り込む。ちなみに、使用する電圧も異なっていて、四つ橋線は直流750ボルト、南海電鉄は直流1500ボルトである。もっとも、これは車両側で切り替えて対応させればいい。

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