ニュース
» 2012年06月26日 08時00分 UPDATE

「ただちに問題ない」は正しい判断? 政府は危機をどう伝えるべきか (1/3)

福島原発事故に関しては、情報が適切に出されていないのではということが問題になった。危機時の政府の情報発信はどうあるべきか。民間事故調の調査報告書でリスクコミュニケーションを担当した塩崎彰久弁護士と東京大学の大塚孝治教授が、朝日新聞の高橋万見子氏をモデレーターに語り合った。

[堀内彰宏,Business Media 誠]

 東日本大震災後の原発事故関連の会見で、「ただちに影響はない」という言葉を何度となく使い、批判を受けた枝野幸男官房長官(当時)。しかし、国が危機にある時、国民の安全を守るため、情報をどう伝えるべきかは非常に難しいところがある。

 危機時の政府の情報発信はどうあるべきなのか、また一般の人々もどのように情報を受け取るべきなのか。2月に公表された民間事故調の調査報告書でリスクコミュニケーションの項目を担当した弁護士の塩崎彰久氏と東京大学理学系研究科の大塚孝治教授が、朝日新聞論説委員兼GLOBE記者の高橋万見子氏をモデレーターとして語り合った。

 →「なぜ原発の安全神話は生まれたのか

 →「科学の解は1つでも政策は1本に決まらない――“構造災”としての福島原発事故

 →「同じ間違い方をする人はいらない!? 原発の規制機関には何が必要か

※この記事は6月9日に行われた日本再建イニシアティブと東京大学主催のシンポジウム「日本再建のための危機管理」の一部をまとめたものです。
ah_kiki1.jpg 左から大塚孝治氏、塩崎彰久氏、高橋万見子氏

「○○してもいいが、リスクがありますよ」では助言にならない

塩崎 今回の震災後、いろんな科学者と言われる人たちがメディアや新聞で前面に出てきたと思います。原子力安全委員会の班目春樹委員長や、原子力委員会の近藤駿介委員長、東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授など、それは顔と名前が一致するレベルでした。

 私たち一般人は科学者というと『鉄腕アトム』のお茶の水博士のような世界しか分からなかったのですが、キャラクターを持ったいろんなタイプの科学者の人たちがいらっしゃると初めて認識しました。ただ、これは科学者のコミュニティの中ではどういう風に認識されていたのでしょうか。科学者が積極的に社会に出て、役割を果たしていく新しい時代の幕開けというような話なのでしょうか。

大塚 震災後、いろんな科学者がそれぞれのお考えに基づいて、いろんなことを発信されて、多くは役に立ったと思うのですが、「ちょっと的外れじゃないかな」というものもあったと思います。でも、いろんな人がいろんなことを言うのは非常に良いことなので、それを制限することは絶対にしてはいけません。

 ただし、科学者は必ずしも表現の仕方が上手な方ばかりとは言えないということは、よく認識していただかないといけません。つまり、科学者は真実を明らかにするのが仕事で、明らかにしたことを仲間に知らせることについてはちゃんと訓練も受けていてできるのですが、一般の方に伝えることについては、少なくとも日本ではほとんど訓練も何も受けていません。そうなると、(伝え方が)キャラクターにものすごく寄ってきてしまうと思うんですよね。場合によっては非常に強く伝わったり、間違って伝わったりということも起こりえると思います。

 今回のように危機があって、しかも科学のある部分の知識がものすごく要求される時には、適切に伝える役目の人がいなければいけなかったんじゃないかと思います。必ずしもそのことについて熟知している専門家ではなくても、社会に伝えることについてはよく理解していて、間に立てるような人がいなければいけない。

 ただし、今の日本でそういう人は探すのは難しいです。どの分野でも難しいのではないかと思いますが、今後はそういう人を育てる努力もある程度必要なのではないでしょうか。

高橋 間に立つ人は、例えば日本以外ではいらっしゃるんですか。

大塚 外国では科学についてのコミュニケーションはもっと進んでいるので、民間にもいますし、例えば30歳くらいまでは研究者を目指していたのですが、途中で目が覚めて「もう少し別のことをしたい」と政府に入って、役人になる人が米国にも欧州にもいます。日本にはあまりいないと思います。せいぜい修士を出たくらいの人しかいません。

 そういう人は多少専門が違っていても、科学的な考え方を良く分かっていますし、何かあった時に少なくとも普通の役人や政治家より早く物事について勉強できるはずです。そういう人がいれば、少なくともコミュニケーションについてはかなりうまくできたのではないかと思います。学者として優れている方は必ずしも発信の仕方が良くないというのは残念ながら事実ですので、世の中の人はそれをよく認識していただいた方がいいと思います。

高橋 塩崎先生、弁護士という仕事は悪く言えばどうやって人を言葉で承服させるかというところもあるのではないかと思います。コミュニケーションの仕方、特に危機管理において、どういう伝え方をするかという時、例えばどういう技術が必要なのでしょうか。

塩崎 リスクをどう伝えるかというところだと思うのですが、例えば横断歩道を渡ろうとする時、「信号が黄色なのですが途中で赤に変わりそうです。先生、これ渡っていいですか?」という質問が来たとします。

 これにどう答えるかはすごく難しいんですね。「渡ってもいいですが、リスクがありますよ」では、何のアドバイスにもならないわけです。これだと受け手側は何の指針にもなりませんし、逆に不安ばかり助長してしまいます。

 「リスクがあるのなら、そのリスクの程度を定性的に0から100の間で少なくとも7段階くらいで描き分けられるように弁護士だったらなってよね」と私は事務所に入った時に言われました。例えば、「リスクが高い」「リスクがないとは言えない」「法律には違反するのですが捕まる恐れはないでしょう」とか、そういう表現のバリエーションでリスクの程度のニュアンスを伝える。これは今回の低線量被ばくのような答えのない世界の時に、もっと工夫の余地はあるのではないかと思います。

       1|2|3 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ

ITmedia 総力特集