科学の解は1つでも政策は1本に決まらない――“構造災”としての福島原発事故民間事故調シンポジウム(3/3 ページ)

» 2012年06月21日 12時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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構造災の原因となったかもしれない社会観が繰り返される

 福島第一原発事故の結果として、原発を存続させるか、あるいは廃止するかという議論がありますが、どちらにしても同じことということがあります。なぜなら、原発を今すぐ廃止しても、高レベル放射性廃棄物処分というのはずっと問題として残ります。私たちにとって残るだけでなく、私たちの子や孫の世代までずっと残りるからです。そのことも抱き合わせで語る必要があるのではないかということです。

 高レベル放射性廃棄物の場合、半減期は数万年くらいなんですね。その間、ずっとためておくための処分場を見つけていかないといけないわけです。今のところ、どこに見つけるかが決まっていませんが、その見つけ方を探る時に例えば次図のような社会観が典型的に関与している可能性があると思っています。

 これは日本原子力学会の和文論文誌からとってきたものです。まとめますと、この地層処分技術という科学技術は、問題を解決するに足る信頼性を備えている。ところが、その科学技術が社会に受容されていないために事業に支障をきたしている。その理由は科学技術が社会に十分に理解されていないことが原因なんだと推論される。だから結論として、専門家の科学技術への信頼を素人が共有すれば事業はうまくいくんだという社会観が表明されています。これはこの論文だけに限りません。

 こういう社会観のもとで進めていく形になっているのですが、1つ抜けているのが交付金なんですね。交付金がどのくらい重要かというと、例えば高レベル放射線廃棄物処分地の募集があって、高知県東洋町が応募したのですが、文献調査のために20億円の交付金が提示されたわけです。これは東洋町の年間予算とほぼ同じです。そのくらいのお金が、その地層で過去どんなことが起こったかを古文書で調べることのためだけに提示されました。次図が提示された時の資料です。町長がここに名前を書いて応募すれば20億円が出ることになっていたわけです※。

※その後、町長選挙で反対派が当選したため、応募は撤回された。

 私たち学者の間では、もっとささやかなお金をもらうのに何十枚と書類を書かないといけないわけですが、随分簡単な制度設計になっているわけです(笑)。

 それはあなたの思い過ごしじゃないかと言われるかもしれないですが、明らかに交付金をインセンティブとした政策展開が行われていることを示すのが次図で、高レベル放射性廃棄物処分を推進するために作られた政府機関のNUMO(原子力発電環境整備機構)の応募書類の付録に、建設・操業期間を60年と想定した時のシミュレーションの結果ですが、こういうさまざまな経済効果があると書いています。だから、もし経済計算ができる程度に合理的な人間には「どうですかね」と訴えかけられる手順であったことがうかがえるわけです。

 それについて推進側が袖の下をちらつかして何かを誘導するような悪い奴というとらえ方をすると、構造災という観点からみると誤ります。なぜなら、それはちゃんと法にのっとって行われているからです。根拠法は電源三法で、電源三法交付金というものがありまして、それに基づいて例えば過去の原発の立地過程においても、さまざまな交付金によって原発が建ってきた経過があります。

 例えば、(原発が立地する)北海道泊村ではアイスリンクが作られているほか、福島県大熊町では中学校の体育館、静岡県浜岡町では最新医療機器や温水プールの整備、佐賀県鳥栖市では保育所、山口県上関市では高齢者保健福祉施設が整備されています。さまざまなインフラに電源三法交付金からお金が出て、それに依存しながら私たちが生きているという構造が存在することを物語っています。

 加えて、東洋町は財政難に直面しています。間近に迫った財政破綻と引き換えに高レベル放射線廃棄物処分地が想定されていることを示しています。つまり言いたいことは、原発を立地する過程で使われてきた手法が高レベル放射性廃棄物処分という別のこれから起こることについても使い回しされようとしている。(構造災の原因となりかねない)そういう社会観をどこかで断たなければいけないのではないでしょうか。

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