科学の解は1つでも政策は1本に決まらない――“構造災”としての福島原発事故民間事故調シンポジウム(1/3 ページ)

» 2012年06月21日 12時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 直接的には東日本大震災が原因となった、3.11の福島第一原発事故。しかし、その状況を招くに至った根本的な原因は何なのだろうか。

 『知の失敗と社会』『テクノサイエンス・リスクと社会学―科学社会学の新たな展開』などの著書があり、科学技術が引き起こす失敗の構造的要因に注目し、天災と人災の隙間で発生する“構造災”について研究している東京大学大学院人文社会系研究科の松本三和夫氏。

 構造災の観点から見ると、今回の事故からどのようなことが言えるのか。2月に福島原発事故の調査・検証報告書を発表した民間事故調に関わった日本再建イニシアティブが主催したシンポジウムで、松本氏は「『構造災』としての福島原発事故―これまで扱われてきていない問題―」と題した講演を行い、国策の失敗軌道について分析した。

 →「なぜ原発の安全神話は生まれたのか

※この記事は6月9日に行われた日本再建イニシアティブと東京大学主催のシンポジウム「日本再建のための危機管理」の一部をまとめたものです。
東京大学大学院人文社会系研究科の松本三和夫氏

原発事故当時はどのような状況にあったのか

松本 福島第一原発事故に関しては、「混乱していた時期だからいろんなことが起こるのはある意味、想定できることじゃないのか」と言われるかもしれません。しかし仮にそうだとしても、あまりにもいろいろな不具合が起き過ぎています。

 例えば、子どもや現場で働いている人たちの間の被ばくの基準がころころ変わったり、複数の機関が関わる時にダブルチェックという名のカバーアップ(隠ぺい)が行われたり、あらゆることに関して公開せず秘密主義にしたりするということがありました。こういうことは制度設計上、不具合を招くということは誰が見ても明らかです。

 もう少し具体的に話をしますと、例えば東京電力は「MAAP」、原子力安全・保安院は「MELCOR」という計算コードを使っています。3つの異なる初期条件を与えて、当時得られた情報に基づいてそれぞれシミュレーションしたところ、どの場合も最も遅くても3月14日から16日のどこかでいわゆるメルトダウンという現象が起こるということはすでに分かるはずだという結果が出ています。

 分かるという結果が出ているということは後知恵で読み替えているわけではありませんから、当然、東京電力も原子力安全・保安院もそのことを承知していなければならないはずです。しかし、そのデータがリアルタイムでは出てきていないことはご承知の通りです。秘密主義というのは例えばこういうことです。

 また次図は原子力安全・保安院Webサイトから持ってきたものです。当初SPEEDIが機能していないという話もあったのですが、これは機能していたということを示すデータです。これは福島第一原発1号機の水素爆発が起こった直後、どんな影響が広域で出るかということをSPEEDIがシミュレーションした結果です。日付を見れば、3月12日17時から開始していると分かります。ご覧のように、放射性物質が海に飛んでいくのではなく、陸地方向に割と局所的に影響が出ることが示されています。

 しかし、政府が示した計画的避難区域は原発を中心とした同心円でした。これは強く言えば、いわば難民状態に当事者を置くことにほぼ等しいということになります。

SPEEDIのデータ(出典:原子力安全・保安院Webサイト)

 ちょっと視点を変えまして、私もあまり言葉としてはいい言葉ではないと思うのですが「原子力ムラ」という言葉があります。それはいかにも日本に限った言葉と受け取られるかもしれませんが、2011年6月8日の米国議会レポートには「Nuclear Village」という言葉が出ています。私たちが原子力ムラと言っていることを彼らは1年以上前に知っていて、彼らは利益相反の一種であると理解しています。

2011年6月8日の米国議会レポート

 また、「サイエンスカフェ」というものもあります。それは一般の人たちに分かりやすく科学の中身を理解していただこうという試みです。しかし、福島第一原発事故までに福島県を含む東北地方で253回サイエンスカフェが行われていますが、そのうち原子力をテーマにしたサイエンスカフェは1件だけです。2010年7月24日に青森県六ヶ所村で行われているのですが、テーマは原子力開発における産学連携で、安全性については一切触れられていません。

 つまり、福島第一原発事故が起こる直前に至るまで、誰もその安全性、裏返して言うと危険性についてサイエンスカフェの場で語ってきませんでした。そしてある日突然、そこに当事者が放り込まれたということを今、こういう形で示すことができます。

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