東京最後の昭和ロマン、京島に学ぶ個性的な生き方郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2012年06月21日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 もはや商店街はいらない? 路地裏なんてノスタルジーですか?

 郊外に住み、スーパーやコンビニに通って育ってきた世代にとって、商店街は不便で面倒なものだろう。セルフではないので、逆に買いにくい。店での会話も面倒。夜も早く閉まる。路地は暗くて物騒だ。区画整理された商業地なら迷うこともない。

 その気持ちは分かる。だが、この街に迷い込んだら、思いが変わるかもしれない。そこには手書きの看板がある。奇跡の路地がある。猫もノビノビする東京最後の昭和ロマンがある。

心もだえる商店街と路地

 その街に迷いこんだのには理由がある。東京スカイツリー開業がテーマのビジネステレビ誠に出演する際、ネタ探しで墨田区内をうろうろした。

 浅草から隅田川を渡りスカイツリーを左に見ながら進み、十間橋通り交差点で北へ。さらに二股に分かれた道を左手へ――すると、口に出すのも恥ずかしい名前の商店街を見つけた。“キラキラ橘(たちばな)商店街”へようこそ。

キラキラ橘商店街

 コッペパン屋、駄菓子屋、レコードを売る電器屋、15時過ぎから煙モウモウのホルモン飲み屋。およそ600メートルほどの地域に見過ごせない小さなお店が密集する。下町風情と人々の会話。でこぼこな店構え。店の裏では猫が寝ている。

コッペパン屋

 さらに一歩路地へ踏みこむと、心がモダえた。京島3丁目の、両手を伸ばすとそれぞれ壁に届きそうな狭い路地を行く。10メートルも進むと「行き止まり?」と思ったところに道が現れ、右に折れ左に折れ、どこまでも路地が続く。曲がった路地脇の玄関から生活がにおい、ペダルの動きが止まった三輪車、ひなたぼっこする布団がある。塀の上では猫がゴロニャン。ああ、路地が呼吸しているようだ。

曲がりくねった路地

 気が付くと、私は京島を徘徊する不審者となっていた。1丁目も2丁目もいいが、路地が曲がりくねる3丁目がいい。区画された住宅街では計算があるため、作り手(自治体や住宅会社)の意志が勝る。だが、京島三丁目のくねる路地や崩れかけた家々では、奇跡的に住み手の意思が勝っている。

 なぜ昭和の雰囲気が残ったのか? なぜこんなに密集しているのか? それが知りたくて地元の図書館に行くと「取り残されてきた」歴史が見えてきた。

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