国家を超える国家は作れるか? 欧州を悩ます難問藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年06月18日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 6月17日に実施されたギリシャの再総選挙。結果がどうあれ、そしてギリシャがユーロから離脱するかしないかはどうあれ、欧州危機は終わらず、むしろ深化することだけははっきりしている。なぜなら統一通貨ユーロには構造的な問題があるからだ。

 簡単に言ってしまえば、各国経済が自国の競争力の一端をユーロに委ねてしまっていることに欠陥がある。通常の国ならば競争力がなくなって国際収支が悪化すれば為替が安くなる。通貨が切り下げられることによって、国は競争力を回復する(ギリシャの場合であれば、通貨が安くなれば、ギリシャ観光が相対的に安くなって観光客が増え、外貨収入が増える)。しかし統一通貨になっているために、ギリシャにはこの為替を切り下げるという手段がない。

 これがユーロの構造的問題である。この結果、国際収支が悪化し、国として資金繰りに窮した国の国債は、市場で売り込まれる運命になる。つまり、市場は「新規に発行する国債にもっと高い金利をつけよ」と要求するのだ。現在の相場だと、10年国債の利回りが6%を超えると黄信号、7%になると赤信号ということになる(ドイツ国債の利回りが1%台の半ばぐらいだから、スペインのリスクプレミアムが5.5ポイントということだ)。

 ユーロ加盟国がすべて国際収支も順調で、財政赤字も少なければ、こういった問題は生じないはずだが、現実はそれほど甘くない。加盟国17カ国でそれぞれ競争力が異なり、そして加盟後の経済の推移も異なる。経済が強い国(たとえばドイツ)にとってユーロのレートはマルク時代に比べれば安くなりがちであり、弱い国(たとえばギリシャ)にとってはユーロのレートはドイツに引っ張られて高くなりがちだ。

 統一通貨ユーロは、経済の問題を解決するどころか、むしろ問題を増幅してしまう。ギリシャがたとえユーロから抜けても、問題は解決しないということである。次はスペイン、さらにはイタリアと、次に次にユーロの「弱い環」が狙われることになる。それを防ぐには、強い国が弱い国を助けなければならない、というのが理屈だが、これは助ける側にとっては国内政治上、ずいぶんとハードルが高い話だ。実際、ユーロ危機の問題では「鉄の女」で鳴らすドイツのメルケル首相だが、国内的な政治基盤は弱まっている。ユーロ問題で弱腰と見られているからだ。

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