「1人1票でないと多数決は保障されない」――1票の格差裁判の升永英俊弁護士に聞く東京の1票の価値は鳥取の4分の1(3/4 ページ)

» 2012年06月15日 10時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

国民審査はネット活用OK

――前回の衆議院議員選挙では、同時に行われた最高裁国民審査で意見広告を出されていましたが、次回も何かされる予定ですか。

升永 もちろんです。私は3年前までは正直、最高裁の国民審査は何のためにあるのかよく理解していませんでした。私は3年前に初めて「最高裁裁判官の国民審査は参政権だ」と気が付きました。

 何のためにやっている制度なのか分かっていなかったのは、私だけではないでしょう。単なるうさばらしで、「この最高裁判事は何をやっているか分からないが、何となく×を付ける」という人もいたでしょう。しかし、×を付けた結果、×が投票数の過半数に達し、実際に最高裁判事が罷免されることを実感した人は、2009年衆議院議員選挙時の国民審査以前にはいなかったでしょう。最高裁裁判官の国民審査は、そういう現実感が全然ない制度として、つまり何のために投票するのか意味不明の制度としてあったわけです。

 しかし、最高裁判事は司法権という国家権力を行使する公人です。15人の最高裁判事はその過半数である8人が憲法違反と判断すれば、国会がいくら法律を作っても無効にできるという強大な国家権力を持っています。そういう国家権力を国民に代わって行使する最高裁判事を、国民審査の全投票数の過半数で罷免する権利を、国民は主権者として持っています。

 2011年の時点で言えば、次回の衆議院議員選挙では7人の裁判官が最高裁国民審査を受けます。7人のうち1人(須藤正彦判事)は「国民は1人1票の選挙権を持つ」という意見を判決に書かれました。しかし、残りの6人(千葉勝美判事、横田尤孝判事、白木勇判事、大谷剛彦判事、岡部喜代子判事、寺田逸郎判事)は「1人0.5票を下回ったなら違憲になる」との意見を表明していますが、「国民は、1人1票の選挙権を持っている」との意見は表明していません。

――前回の最高裁国民審査では、住所差別の選挙制度を合憲とした2人に×を付けるように意見広告で出されましたが、結果として不信任率は1%ほどしか変わりませんでした。なぜ、あまり広がらなかったと思いますか。

升永 私は、全く逆の印象を持ちました。2009年8月に1カ月行った意見広告では、涌井紀夫判事と那須弘平が最高裁判決で1人1票に反対の意見を表明していると記述しました。2009年8月の最高裁判所裁判官の国民審査の結果は、以下のとおりです。

2009年最高裁国民審査

名前 不信任票の数(カッコ内は有効投票数に占める割合)
桜井龍子 465万6462票(6.96%)
竹内行夫 449万5571票(6.72%)
涌井紀夫 517万6090票(7.73%)
田原睦夫 436万4116票(6.52%)
金築誠志 431万1693票(6.44%)
那須弘平 498万8562票(7.45%)
竹�啗博允 418万4902票(6.25%)
近藤崇晴 410万3537票(6.13%)
宮川光治 401万4158票(6.00%)

 次図を見て下さい。涌井判事と那須判事の×印の数は、全国で平均508万2326票で、他の7裁判官は平均430万4348票です。つまり、77万票という大差です。わずか1カ月間の全国紙中心の意見広告で、77万個の×印が1人1票を認めない判事に付いたということは、すごいことです。

不信任票

――公職選挙法では選挙期間中のインターネットでの選挙運動を制限していると解釈されていますが、国民審査の場合はインターネットを使っても問題ないのですか?

升永 構いません。客観的な情報を出しているのであれば。

――誰に×を付けるべきと書いても大丈夫ですか?

升永 構いません。そこまで書かなくてもいいんじゃないですか。×を付けるか、×を付けないか、判断できるだけの情報を出して、それぞれの情報の受け手に判断してもらえばいいと思います。

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