デザインで商品を再活性化せよ――スコッチ メンディングテープの挑戦それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2012年06月13日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2012年6月8日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 「スコッチ メンディングテープ」をご存じだろうか。粘着テープの表面につや消し加工が施され、貼り跡が目立たない。コピーをとってもほとんど影が映らず、テープの表面に文字も書けるという上質なテープのブランドである。

 だが、「知っている」と言う人は圧倒的に40代以上の人が多いはずだ。なぜなら、PCの普及とともに「切り貼り」の文化がなくなり、オフィスでの需要が大きく縮小したからである。バブル崩壊以降の不景気も追い打ちをかけている。単に貼るだけなら安価なテープでこと足りる。ユーザーの認知は低下し、需要は細る。市場消失の危機が目の前にあったと言っても過言ではないだろう。

 そこで同製品の再活性化のため、スリーエムが打ち出したのが、デザイナー文具への展開だった。このターゲットをどこに置くか。

 「昨今、自分で使う道具を(企業や学校から)与えられたモノではなく、自ら買い揃えるというこだわりを持った人が増えているのです」

 同社の石川由佳・ステーショナリー製品マーケティング部部長はユーザーの変化を指摘する。市場が縮小する中、ユーザーの変化は商機となる。ここで、「企業・学校などの中でこだわりを持った組織内個人」「(将来にわたるユーザー育成を目的として広く)若年層」という2つの戦略ターゲットが設定された。そして、戦略実行の第1弾として10代女性をメインとした商品企画が行われた。

スリーエムがドーナツを売る?

 商品はまず、2008年に台湾でデザインされた。テープを包み込む親しみやすいリング型でドーナツを模した形状のテープディスペンサーである。同国で爆発的な人気となっていたものを持ち込み、日本のマーケティングチームで「スコッチ メンディングテープ ドーナツ」(次写真左)という名称を決め、よりドーナツらしい色やパッケージにブラッシュアップして2008年12月に上市したところ、たちまち店頭で在庫切れを起こす人気商品となった。

 そこで、さらに2010年8月には「スコッチ メンディングテープ リングドーナツ」(写真右)として新しいシェイプのシリーズを展開した。こちらの商品は、「テープをはめる部分に溝を付け、住友スリーエム製の詰め替えテープしか使えないようにした。第1世代で95%だった詰め替え用での同社テープの利用を100%に引き上げる」(2010年10月1日付 日経産業新聞 「デザインここで勝負 住友スリーエム」)

 ドーナツといえばミスド(ミスタードーナツ)である。同店で大規模なコラボレーションの販促が行われた。店頭での陳列に加えて、景品としてサンプリングを行ったのである。また、ドーナツデコレーションコンテストをネットで開催したり、東京ガールズコレクションでサンプリングしたりするなど、同社としては異例の販促活動も多数展開。これによって、戦略ターゲット内の認知・使用率をアップさせることに成功した。「ドーナツ型容器の登場で、10〜20代の女性の認知度は発売直後の8%から2009年9月で35%に向上した」(2010年10月1日付 日経産業新聞 「デザインここで勝負 住友スリーエム」)という。

 ドーナツ型からの学びは「エモーショナルなコミュニケーション」の重要性だった。そこで第2弾の商品を展開すべく、フィリップ・レフュアー氏が住友スリーエム初のデザインマネージャーとして担当に就いた。「感性に訴える。使う楽しみ。ユーザーエクスペリエンスをカタチにしたかったんだ」と同氏は語る。

 2つの製品が企画された。1つはハート型(右の写真上)のテープディスペンサー。もう1つはボックス型(同写真中、下)のテープディスペンサーだ。ハート型は普遍的なデザインであるが、より若い女性に持ち歩いてもらう意図を込めて作った。「楽しさ」を強調したのである。ボックス型は「感性に訴える」デザインである。ビジネスデスクに馴染むスクエアな静かなデザインであるが、ひとたび開けばその開き方、手応え、開閉音などがクセになる。そのデザインが認められ、2012年3月にドイツのレッドドット・デザイン賞を受賞した。

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