南相馬市で中華そばを食べ、住民の“絆”を感じる相場英雄の時事日想・南相馬編(3)(3/4 ページ)

» 2012年06月07日 08時01分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
中華そば

 私が郷里の三条を離れてから27年が経過した。三条に行くのは年に1回程度。どちらかと言えば郷土愛に乏しい人間だ。だが、この瞬間ほど、三条に生まれたことを嬉しく思ったことはない。

 実際に双葉食堂自慢の「中華そば」が私の前に運ばれてきた。澄んだスープを一口飲む。麺をすする。うまい。お世辞抜きでうまい。昔ながらの中華そばだ。

 私が食べ続ける間も続々と店内に客が入ってくる。親子連れ、カップル。そのたびに浜通りの威勢の良い地元言葉が店中に飛び交う。

 そんな中、私の息子と同世代と思われる男の子が1人で入店した。彼が中華そばを注文した途端、厨房の店主が尋ねる。

 「お兄ちゃんはネギ抜きだったね」

 男の子がはにかみながらうなずいた。近所の仮設住宅から来たのだろうか。店の客はほとんどがスタッフと顔見知りのようだ。確認したわけではないが、大部分の客が小高の人なのだ。

 このとき、私は悟った。

 小高の人たちは、かつての日常を取り戻すためにこの食堂に集うのだ。もう一度、壁に目を向けた。小さなパネルに一軒家の食堂の写真が掲げられていた。私の視線をたどったのだろう。店のスタッフが教えてくれた。

 「小高区にある店よ」

 この仮設店舗に集う人たちは、20キロの内側へ、依然として瓦礫(がれき)が残り、インフラの復旧さえままならない小高を思い、この店に集まってくるのだ。

 笑顔を絶やさない店主とスタッフは、その気持ちに応えるために気丈に振る舞い続けている。私にはそう思えた。

 中華そばをあっという間に平らげた。壁に目をやると、野馬追の大きなポスターがある。昨年、規模を縮小して開催した南相馬を代表する一大イベントだ。

 「今年は会場全体を徹底的に除染してやるから。見に来てよ」

 私は即座にうなずいた。

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