喉の渇きを堪えながら、運転席に戻った。
車中で煙草をふかす。鼻の奥に残った異臭を煙でぼかそうと思った。だが、異様な臭気は一向に鼻の奥から離れなかった。
ガムを口に放り込み、カーステレオにつないだiTunesを操作した。20キロの外側、のどかな風景の中を走っていたときは、ジェフ・ベックのエッジの効いた曲をかけていた。刺激の強い光景ばかり目にしてきたため、せめてBGMくらいは穏やかな音が欲しい。私は自然とスティングのコレクションを再生し、運転を再開した。
6号線を走る車両の大半は「福島」、あるいは「いわき」ナンバーだ。上り下り車線ともに自宅に向かう地元の人たち、あるいはその親戚とおぼしき人たちだ。
ゆったりとしたクルマの流れに自家用車を合わせていると、谷間の直線道路にたどり着いた。前方にパトライトが光っている。
検問だ。
減速し、遠い地点で写真を撮った。地元ナンバーばかりのクルマの流れに、練馬ナンバーは明らかに不審だ。運転しているのはサングラスをかけた髭面の中年男。問答無用で撮影を禁じられると思った。二度シャッターを切ったあと、ゆっくりと検問所に入った。
「通行許可証をお持ちですか?」
胸元に栃木県警と描かれた機動隊服を着た若い警官に尋ねられた。持っていない旨を伝えると、即座にUターンを命じられた。
「ここは福一まで何キロの地点ですか?」
「たしか……7.5キロです」
若い隊員が自信なさげに答えた。
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