豊かな国は貧しい国を援助するべきか――ユーロをめぐる難問藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年05月28日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 ある会合で日銀の大物OBと顔を合わせる機会があった。さっそく質問してみた。テーマはもちろん欧州危機である。よどみなく答えが返ってきた。

 「歴史を前に進めようとすれば選択肢はトランスファーするしかない」

 歴史を前に進めるということは、「ユーロという共通通貨をぶっ壊すつもりでなければ」ということである。今の時点でユーロがばらばらになるという言い方は出ていない。ただギリシャがユーロから離脱するかどうか、離脱したときにどの程度の混乱が待ち受けているのかということが話題になっているだけだ。そしてドイツのブンデスバンク(中央銀行)総裁に代表されるような「ギリシャの離脱は“manageable”」であるという言い方が多いようにみえる。

ブンデスバンク公式Webサイト

 とはいえ、今までに経験のない、それこそ想定外のことであるだけに、みんなが気が付いていない落とし穴がないとも限らない。そうなれば選択肢はおのずから限られる。何が何でもユーロ圏の維持である。そのために何が必要か。分かりやすく言ってしまえば、要するに地方交付税交付金がEU(欧州連合)にも必要だということだ。

 日本でも全国都道府県の財政状況はそれぞれに違う。豊かなところもあれば、そうではないところもある。それぞれの都道府県の自助努力とは言っても、それを放置すればますます悪化するところも出てくるため、国が地方交付税交付金という形で調整する。要するに富を豊かなところから貧しいところに移行する(トランスファー)ということだ。こうした仕組みは、例えば東京都にもあって、豊かな区と豊かではない区の財政調整を都がやっている(都区財政調整制度という)。

 同じ国の中にある自治体では、これをめぐって不公平だとか、働かない県に資金を渡すのはモラルハザードを起こすとかいう議論はあまり聞かない。都道府県は国家ではないからだ(江戸時代の幕藩体制だと藩の懐事情は藩主が責任をもっていた。藩の運営がまずければ幕府によって領地を召し上げられることもあった)。

 しかし、国が連合して共同体を作っているような場合は、豊かな国からそうではない国に富を移行するのはそう簡単ではない。国富はあくまでもその国の国民に属するものであり、それをよその国に渡すのは、先進国が発展途上国に渡す政府開発援助ぐらいしかない。それを資金繰りに苦しい国に、豊かな国が資金援助しようというのだから、豊かなドイツ国民が納得するはずはない。

 しかしギリシャなどにしてみれば言い分はある。まず「ユーロ圏内で競争力の強いドイツは、ユーロの相場が相対的に安いことによる恩恵があっただろう」というのである。ドイツマルクの時代であれば、ドイツの黒字が大きくなればマルクが値上がりし、競争力が落ちたはず。しかしユーロであるためにドイツが黒字になったからといって為替が値上がりするわけではない。少なくとも直接的に影響するわけではない。ということはユーロにした恩恵が一番大きかったのはドイツというわけだ。だからドイツはギリシャを援助すべきだという議論である。

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