ここまで座談会を読んで、「自分も新人のころは同じようなことを考えていたな」と感じる人も多いのではないだろうか。大学時代に自由に遊んできた人はかなりいるだろうし、この座談会の5人もそうである。4月1日を境に学生という身分からいきなり社会人となり、心の準備はできていても社会人としての思考に達するのはなかなか難しい。
また、研修を課している企業側の視点からも、実際に研修を受けている新人の声を聞くことで考えるものがあったのではないだろうか。研修は、受けている人間が効果を感じるものであるべきだ。あるいは、もし現状の研修で学ぶことを効果的に吸収してほしいと思うのなら、始めに学んでほしいことを伝えておく方がより抵抗なく吸収できるだろう。
例えば、電話応対の例であれば「会社でもローカルルールが存在するが、世の中全般の知識として身に付けてほしい」とあらかじめ伝えるだけで「現場と違った」という声は挙がらないし、また新人もローカルルールを学ぶ別の機会を積極的に得ようとしやすくなるだろう。
とはいえ、新人だからこそ“甘い考え”のままで研修を受けているという側面も否定できない。そこでイニシアチブ・パートナーズ代表で組織人事コンサルタントの川口雅裕氏に「研修とは何か」について話を聞いたので、記事の後半で紹介したい。
という3つの質問をしてみた。
須田 座談会では「研修と現場は違う」との声もあがりましたが、いきなり現場に行くのではなく研修を先に行うメリットについてどのようにお考えですか?
川口 現場で多様な経験を積むことは非常に重要ですが、経験が多いだけで、系統立てて蓄積されていない、勘所やコツが理解できていない、という人は多いですよね。それは、経験を原理原則や体系にまとめる機会を持っていないからだと思います。経験を浪費してしまっているわけです。
研修というのは、「原理・原則」「全体像や体系」「本質」を学ぶ機会です。研修は、せっかく経験したことを効率的に次に生かせるようにするためにあるということです。経験を浪費せず、大切にする、というか。
問題集をやりまくっているけど、一向に成績が上がらない人はいます。一方、たくさん問題をやらなくても、勘所を押さえて成績につなげる人もいます。後者のようになるために、研修はあります。
つまり、経験(現場)と研修(学ぶ)を繰り返し続けることが、キャリアアップには大切だと思います。
いきなり現場に行くのではなく研修を経るメリットは「心構えができる」「手続きを覚える」くらいですね。無難なスタートが切れるというか……。いきなり現場に行くのもインパクトがあっていいと思います。どっちが先でもいいと思いますが、大切なことは経験(現場)と研修(学ぶ)を繰り返すことだと思います。
須田 新入社員に研修の様子を聞くと、声が枯れるまで大声をあげる、山を登るといった“体育会系”の研修もあると聞きます。そうした研修の意図はどういうところにあると思いますか。
川口 学生の本気と、社会人の本気は違いますよね。働き出してしばらく経つと、社会人らしい顔に変わる時がたいていの人にやってきます。照れたり、臆したりせず、こだわって、細部にも目配りができて、工夫や創意があって、先まで見通せて……みたいな仕事をしようという姿勢が出てきます。
おっしゃるような研修は、早くそんな「本気」になってもらう、プロらしい顔・姿勢になってもらうために、どこか心の中で緩んだ部分、世間を甘く見ているようなところ、「誰かがやってくれる」みたいな子どもっぽい気持ちを、一気に払拭(ふっしょく)しようというという意図ですね。
研修屋さんやコンサル屋さんで、米国かぶれの人たちはこういう(体育会系の)類の研修に否定的ですが、私は一定の効果はあると思っています。というより、好きですね。スキルだけでやれる仕事なんて、実際に世の中にはあんまりなくて、心と体を鍛えることは、実はとても大切だと思うのです。
現場ですぐ使える内容の研修なんて、こんなスピードの速い時代では、すぐに役に立たなくなります。だから、すぐ使えることばかり学んでいると、いつまでもシンドイわけです。
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