緊縮財政か成長戦略か、欧州が問われる選択藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年05月21日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 欧州が再びギリシャをめぐって混乱の最中にある時、ちょうどG8サミットが米国のキャンプデービッドで開かれた。11月に選挙を控えるオバマ大統領にとっては、欧州発の金融危機によって米国を含む世界経済が危機に陥ることは何としても避けたい。米経済は強弱材料が入り混じっているとはいえ、何となく雇用も上向いている感じなのに、ここで腰を折られたらたまったものではない。

 というわけでオバマ大統領のメッセージは明確だった。「緊縮一辺倒だけでなく、成長戦略も重視せよ」である。要するに、「財政再建がなければ経済成長はない」と考える欧州と、「とにかく金融超緩和と財政支出による景気刺激で経済の自律回復を導くのが先決」と考える米国の“対決”で、米国がまず先手を取ったということだ。

 もちろん経済成長が望ましいということに誰も異論はない。しかし野放図に金融を緩和し、財政支出による景気刺激策を取れば、結果はハイパーインフレであるというのが欧州の基本的な姿勢だ。第一次世界大戦の後、ハイパーインフレに見舞われたドイツは、特にその怖さを実感として持っている。だからブンデスバンク(ドイツ中央銀行)は、ECB(欧州中央銀行)が債務に苦しむ国の国債を買い入れることに反対だ。

 ギリシャだけでなくスペインやイタリアなど国の資金繰りに汲々としている国にとって、国債の利回りが上がることは真綿で首を絞められるようなもの。先週末にはスペインの10年国債の利回りは6.22%と危険水域に近づきつつある。

 しかもスペインは、銀行の不良債権、とりわけ住宅ローンの焦げ付きが大きい。3月末で不良債権の比率が融資残高の8.4%に達しているというから半端ではない。通常ならありえないほど、ひどい数字だ。貯蓄銀行を統合して再出発したバンキアはとうとう国有化を余儀なくされ、スペイン政府はバンキアのリストラを米国のゴールドマンサックスに依頼した。まだはっきりした数字は出ていないが、報道によれば120億〜150億ユーロ(1兆2000億〜1兆5000億円)の資本注入が必要とされている。

 銀行の経営状態が悪化する時に、最も警戒されるのは取り付け騒ぎだ。ギリシャでも預金の流出が続いているが、スペインでも海外の預金者を中心に資金が流出している。そうなると銀行に対して国が資金を出さなければならないが、スペイン政府の最大の問題は資金がないこと。しかし資金を借りようにも金利が高いとなれば、EU(欧州連合)やECBに助けを求めることになる。

 スペインもEUから財政赤字の目標(GDPの3%以内)を達成するよう求められている。つまり緊縮財政の実行だ。ただ失業率が25%に達するなど経済の状況が悪化しているため、欧州委員会は目標を先送りしてもよいとしているが、スペインの状況はそれだけで収まりそうにない。

 傷ついた金融機関を助けるために資金を注入しながら、国の財政規律を回復し、一方で景気刺激のために資金を投じるなどという芸当は、スペイン政府ならずともできない。G8サミットで野田首相は消費税引き上げ法案を成立させると明言したが、一方で日本が景気刺激のために何をするのかはあまりはっきり語っていない。今のところ、東日本大震災関連の支出が増えているため、1〜3月期は年率4%を超える成長率を達成した。しかし今年の後半ということになると、はなはだ心許ないのである。

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