「読売新聞は言論を売っていない」――清武英利氏、佐高信氏が語る出版契約裁判(1/4 ページ)

» 2012年05月18日 21時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 読売新聞東京本社は4月11日、七つ森書館と結んだ復刻出版契約の無効確認を求めて東京地裁に提訴した。無効確認を求められた本は、1998年に新潮社が発行した『会長はなぜ自殺したか』。

 同書のテーマは、証券会社による損失補填の発覚に端を発し、銀行、大蔵省から政界まで巻き込み、第一勧業銀行(当時)の宮崎邦次元会長、新井将敬代議士を始め6人が自殺に追い込まれた1990年代後半の金融不祥事。読売巨人軍の元球団代表兼GMである清武英利氏が、社会部時代にキャップとして組織取材した内容をまとめた1冊である。

 七つ森書館によると、復刻出版の手続きは2010年12月から行われ、2011年5月に契約が結ばれた。しかし、読売新聞東京本社では「読売新聞社において、出版契約は局長が了解・決定するのが通例であるが、今回はそのような手続きが実行されていなかった。権限を有していない社会部次長が署名しているから無効である」と主張、契約の無効を求めている。

 清武氏と監修の佐高信氏は5月17日、日本外国特派員協会で行った会見で読売新聞社の対応を非難した。

佐高信氏(左)と清武英利氏(右)

新聞は訴えられるものであって、訴えるものではない

佐高 私は新聞というものは訴えられるものであって、訴えるものではないと思っていましたので、非常に驚いて、あきれています。私は、今問題になっている読売新聞清武班の本の監修解説者ということでここにいます。「新聞は訴えられるものだ」というのは、(新聞は)言うまでもなく言論を売っているわけですから、それ(契約)が気にいらなければ言論で応えればいいわけです。だから、読売新聞が訴えたということは、読売新聞の言論に自信がないということを自分で証明した、もうすでに読売新聞は言論を売っていないということだと思います。

 今、この本は“読売新聞清武班”と文章の責任を明らかにしたところが問題になっているわけですが、それを問題にしたというのは読売新聞の場合はすべて、社会部だけでなく渡邊班であっても、名前を明らかにする必要がないんだろうという皮肉を申し上げたい。

 今日は、1998年に出版された『やっぱり読売新聞が面白い!』という本を持ってきました。これは読売新聞宣伝部が出した本で、読売新聞のPR用に出した本であるわけですね。その本の巻頭が私へのインタビューになっています。一番後ろでは、(読売グループ会長の)渡邉恒雄氏が宮崎緑氏のインタビューに答えています。まだ14〜15年前はそういうゆとりというか、幅が読売新聞にはありました。

 当時、私は読売新聞の『週刊読売』で、「鵜の目鷹の目佐高の目」という連載コラムを書いていました。その時、ライバル誌の『週刊現代』からの、「渡邉恒雄氏の批判を喋れ」というインタビューに応じたんですね、私は「これで『週刊読売』の連載はなくなるだろうな」と覚悟しつつインタビューに応じて、渡邉恒雄氏を批判したわけですが、、連載はなくならなかったんですね。今では全然考えられないことで、どんどん読売新聞は幅をなくしていったんだと思っています。

 これを企画した読売新聞宣伝部の人は、そのインタビューについて「意表を突く出だしだろう」と誇ったようなことを書いていて、「当紙にとっても耳の痛い指摘をもらった」という風なことを書いていました。

 もう1つ、当時の読売新聞と今の読売新聞の違いを象徴する出来事について、私はこのインタビューで言っています。当時、私といわばコンサバティブ(保守派)を代表する櫻井よしこ氏が出席するシンポジウムがあったのですが、それを報じる産経新聞は「櫻井よしこ氏ら」と書いたんですね、読売新聞は「佐高信氏、櫻井よしこ氏」と書いてある、朝日新聞は「佐高氏ら」と書いてある(笑)。こういう見事な色分けがあったのですが、残念ながら今、読売新聞が同じような内容を書くとしたら、「櫻井氏ら」となって、私は見事にオミットされる(省かれる)んだろうなと思います。

 もう1つここに持ってきた本が、読売新聞社刊行の「戦後ニッポンを読む」というシリーズに収録した城山三郎氏の『黄金峡』という小説で監修解説は私です。(「戦後ニッポンを読む」では)フィクション、ノンフィクション両方から、私が名著と思ったものを選んで復刻しました。それと同じようなことを七つ森書館で企画して、読売社会部清武班というものが問題になったわけですが、わずか15年の読売新聞の変化によって、私は今日ここに立たざるをえないようになったことを喜んでいいのか悲しんでいいのか、ちょっと判断に苦しみます。

 これから清武さんにお話しいただきますが、私は復刻したこの本(『会長はなぜ自殺したか』)は渡邉恒雄氏や読売新聞の記者たちにこそ熟読してほしいと思っています。

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