ノンワイヤーブラとカラオケをフレームワークで分析しよう!それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2012年05月16日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2012年5月11日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 米国の著名な経営学者フィリップ・コトラー氏の考案したフレームワークの中で、「STP理論」ほど有名ではないが、実は有用なのが「製品特性分析」である。

 製品の持つ価値を、「中核」「実体」「付随機能」という3つの階層に分解して、その意味合いを明確化したもので、「中核=その製品を手に入れることで実現される中心的な便益(ベネフィット)」「実体=中核を実現する上で欠かすことのできない要素」「付随機能=中核の実現には直接影響を及ぼさないが、存在することで魅力を増す要素」と定義される。

 このフレームワークをアタマに入れておくと、企業が新製品やサービスを発表した時などに、その意図や位置付けを推察しやすい。競合動向の分析などにも役立てられる。試しに、手元の新聞から幾つか記事を拾ってやってみよう。

実体価値を改善し、新たなニーズを掘り起こす―ブラジャーとテープカッター

 まず、1つめがブラジャー。「無印良品」を展開する良品計画が、3月に発売した女性用下着について紹介している(「良品計画『ノンワイヤーブラジャー』――縫い目減らし、着心地良く」『日経MJ』2012年4月25日付)。

 製品化コンセプトは「リラックスできる下着」であるという。それを実現するため、素材は「綿100%の『綿フライス』と『綿リブ』、綿90%にポリウレタン10%が入った『ストレッチ天竺』」の3種類とし、一般的なブラジャーは「ポリエステル製が多いが、カップの内側や肩ひもにも綿素材の素材を使った」。また、「縫い合わせる布の枚数を少なくするなど工夫して、肌に当たる縫い目も減らした」結果、「着心地やかぶれを気にする女性に受け」、売り上げは計画の3倍のスピードで推移しているという。20〜30代の若い購入者を取り込むことにも成功したとのこと。

 ブラジャーの「中核」価値は、「バストを保護し、美しいカタチにすること」だろう。その意味においては、この「ノンワイヤーブラジャー」も変わらない。しかし、それをどのように実現するかという「実体」価値の部分を徹底して改造し、成果を出した好例と言っていい。

 もう1つがテープカッターだ。同じく4月25日付の日経MJに「ニチバンのテープカッター、金属刃で切り口直線に、小型で持ち運びしやすく」として同社の小型カッター「セロテープ直線美mini」が紹介されている。

 「テープの切り口がきれいな直線になるように独自の金属刃を採用。持ち運びがしやすく、デスクの狭いスペースにも置けるデザイン」にしたとある。もちろん、刃に手が触れてもケガをしにくいよう工夫をした上でだ。「従来の小型のテープカッターは、ケガをしないようにプラスチックの刃を使った」ものが多かったが、その結果として、テープの切り口がギザギザになり、どうにも美しくないのが通常だった。消費者にとっては、もはや“アタリマエ”になっている潜在的なニーズギャップをこの製品は改善しているのである。

 これは、「テープを切り取れる」というテープカッターの「中核」価値を支える、「どのように切り取れるのか」という「実体」価値の部分に目を向け、小さな工夫であるが、実は大きなメスを入れた結果の製品であると解釈できる。

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