「卒業する」「去る」「逃げる」――3つの転職の動機(2/2 ページ)

» 2012年05月15日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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「動く」場合の底にある動機は何か

 とはいえ、「キャリアが行き詰まってどうしようも手がない」「こことは違う場所に明らかに大きなチャンスがある」「現職場には抜き差しならない重大な問題がある」などの時は、やはり、その場から動くという選択肢が現実味を帯びます。

 もし、現在の雇用組織の内にほかに移ることのできる適切な場所があれば、そこに「異動」するのがリスクの低いやり方になるでしょう。同じ組織内であれば、転属に伴うわずらわしい手続きや費用的なロスもないでしょうし、組織文化や仕事のやり方といった環境面での変動も少なくてすみます。一般的に、複数の事業を持つ大企業ほど、組織内には多様な職場や職種転換機会があり、その意味で恵まれた環境にあるといえます。

 さて、それで現在の雇用組織内に適切な異動場所や機会がないという場合、いよいよ組織外へ「転職」という選択になります。

 転職の動機は人さまざまに生じます。第1に現職に対する不満から来る動機です。仕事の内容と自分の能力がマッチしていない、給料が少ない、労働環境が悪すぎて身体を壊しそう、上司との人間関係で強いストレスを感じている、会社に将来性が持てない、今の仕事には成長期待が持てないなどです。これらは言ってみれば、「不満・不遇」動機です。この場合の転職は、現職から「逃げる」といった色合いが出ます。

 また第2として、上昇志向による転職動機があります。つまり、現職環境に強い不満があるわけではないが、もっと自分の能力を高めたり、活躍舞台を広げられたりする先がほかに見つかった場合、そこを出たいという欲求です。そこには何らかの建設的な目的が存在します。これはつまり、「向上・挑戦」動機と言えるでしょう。この時の転職は、現職を「卒業する」といった色合いになります。

 さらに第3として、家族の介護のためにUターンをしなければならなくなった、出産・育児を迎えることになり、労働時間の少ない仕事に変えざるをえなくなったなど、自分の意志にかかわらずやむをえない事情が生じた場合の動機もあります。これらは、「非意志」動機と言っていいかもしれません。この時の転職は、現職を「去る」色合いです。

転職は劇薬である。副作用も大きい

 転職が1番目の「不満・不遇」動機の時、特に注意が必要です。現職場の不満・不遇解消のために転職することは、それ自体もっともな動機ですし、実際、多くの人が転職によってそれらネガティブな状況を解消する例もあります。

 しかし、転職という選択を安易な逃げの意識で使うと、デメリットが生じてくることを留意しなくてはなりません。つまり、忍耐強さがなくなり逃避グセがついて、2度、3度と同じような転職を繰り返す可能性が高まってくる。そうなれば、社会が自分を安定性のある人材として評価しなくなるといったデメリットです。それに第一、逃げのみの意識の人は、転職の面接のときにそれが表に出てしまい、強いアピールができません。

 したがって、仮にあなたが「不満・不遇」のネガティブ要因で転職を考えているなら、同時に自分の中で、向上や挑戦といったポジティブな理由を見つけることが大事です。転職はある意味、「劇薬(あるいは外科手術)による治療」というべき手段であって、即効性がある反面、副作用も強いのです。劇薬にしても手術にしても、身体がある程度健康でない場合には使えないのと同じように、そもそもの自分の意識がしっかりとしていなければ、結局、転職に振り回される結果になります。

 以上、本記事では、転職を何かコワイものとして書いたきらいがありますが、転職は「ハイリスク・ハイリターン」なだけです。リスクをきちんと制御すれば、リターンも大きいものです。私自身を振り返ってみても、数度の転職によって自分の人生は、文句なしに広がり高まったように思います。

 先ほど転職は劇薬だと言いましたが、血の気があり余り、志が明快な人にとっては、むしろ転職は滋養強壮剤となって、さらに活動を増進させるものになりえます。

 「転職したほうがいいのかな」と思っている人への私からのアドバイスは──「留まる」もよし。「動く」もよし。未来に向かって拓く心があれば、どちらの方向にも正解はある(作れる)!

 もう1つ──普段の「展職」が基本。時に「転職」という手段。そして結果として「天職」がみえてくる。(村山昇)

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