「卒業する」「去る」「逃げる」――3つの転職の動機(1/2 ページ)

» 2012年05月15日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:村山昇(むらやま・のぼる)

キャリア・ポートレート コンサルティング代表。企業・団体の従業員・職員を対象に「プロフェッショナルシップ研修」(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)を行う。「キャリアの自画像(ポートレート)」を描くマネジメントツールや「レゴブロック」を用いたゲーム研修、就労観の傾向性診断「キャリアMQ」をコア商品とする。プロ論・キャリア論を教えるのではなく、「働くこと・仕事の本質」を理解させ、腹底にジーンと効くプログラムを志向している。


 「この会社もう辞めようかな」「こんな仕事にキリを付けて転職した方がいいかな」と思ったとき、選択肢は4つです。

(A)留まる

1.現職場で「我慢する」

2.現職場で「奮起する」

(B)動く

3.社内で「異動する」

4.社外へ「転職する」

「留まる」のも立派な選択肢

 最も簡単でリスクの少ない選択肢は、現在の環境で我慢し、様子見することです。「しばらく我慢すれば、嫌な上司も代わるかもしれないし、会社の空気も変わるかもしれない」「そもそもほかに行けるところもないしなあ」といった受身の対応です。

 「自分のキャリアをどうしたいか」という主体的な意志が弱い場合は、ヘタに動かずにいた方がいいというのは処世術として正しいかもしれません。ただ、仕事が苦役であり、ストレスの蓄積に耐えるばかりの人生でいいのかという大きな自問は残ります。

 一方、そこに留まって現在の環境を主体的に変えるという勇敢で賢明な選択肢もあります。昔から「石の上にも3年」とあるように、1つの仕事、1つの組織に丸3年かかわっていると、いろいろなものが見えてきますし、身に付いてきます。不思議なことに、丸2年と丸3年の差は大きいものです。2年では見えなかったものが、3年いると忽然(こつぜん)と見えてくるものが多いのは、過去から大勢の人が経験するところです。

転職の前に「展職」を試みよ

 私は、企業の研修などで「転職というワイルドカードを切る前に、どれだけ“展職”を試みていますか」と、受講者に質問を投げかけています。

 「展」とは、「展(の)ばす・展(の)べる」などと訓読みし、広げる、広がるといった意味です。つまり「展職」とは、いま自分が行っている職・仕事の可能性を広げ、進化・発展させていくことを言います。

 今目の前にある仕事が、つまらないものだと思えばいつまでたってもつまらないもののままです。自分の能力とミスマッチ(不適合)だと思えば、いつまでもミスマッチのままです。しかし、どんな仕事にも進化・発展の余地はあるはずだと思ってやれば、どこまでも進化・発展する可能性があり、面白さが発掘できます。また、自分自身も仕事や環境に馴染むように変えていける可能性は十分にあります。

 演劇の世界に、次のような言い方があります。

 「小さな役はない。小さな役者がいるだけだ」

 「こんな会社」「こんな仕事」と思っても、そこで留まる勇気を出し、与えられた環境の中で最大限その仕事を大きく引き伸ばす挑戦をすることは、立派な選択肢です。そこで何らかの結果を出してから、次の舞台を考えても遅くはないのです。むしろ、そこで結果を出してからのほうが、かえってよい職業人生を作る経路となることがあるのも事実です。

 ネット販売会社Amazon.co.jpの立ち上げ期に本のバイヤーとして活躍された土井英司さんは、著書『「伝説の社員」になれ!』で、まさにその点を忠告してくれています。 ──「転職は、今いる会社で実績を積み、「伝説」を作ってからでも遅くはありません。いや、実績を積んだとき初めて、転職するもしないも自由な身になれるのです」と。

 「こんな会社でくすぶっていては人生の時間がもったいない。早く転職しなければ」と焦る気持ちは分かります。人材紹介業の発達している時代ですから、登録して面接をすれば、何がしかの会社に移れるかもしれません。しかし、その時の自由は、実は“小さな自由”です。

 現職でしっかりと実績をつくる。望ましくは伝説の1つくらい作る。自分をそういう状態にすれば、会社から「今度、新規のプロジェクトを任せたいんだが」と昇進の機会が得られるかもしれませんし、他社から引き抜きのオファーだってあるかもしれません。そこまでいかなくても、明快な結果を出すまで自分を成長させたのであれば、転職するにしてもその候補は広がってきますし、実際、面接の際には、その実績が強力なアピール材料となり、合格を勝ち取れる確率は相当高まるはずです。

 あるいは、先の土井さんのように、世間が騒ぐような伝説を作ってしまうと、独立起業という選択肢も見えてきます。つまり、現職環境から粘り強く結果を出すことで、もっと幅広い選択肢が手に入るようになってくるのです。さらに言えば、選択肢が向こうから寄ってくる。これが“大きな自由”です。

 ですから、もしあなたが今の会社で転職しようかどうしようかウジウジしている状態であれば、あと1年なら1年、2年なら2年と期間を区切り、「伝説を作るぞ!」と目標を決めてがむしゃらにやることです。それができたとき、今よりはるかに豊富な選択肢を手に入れることができているに違いありません。

 「ここで結果を出せない者は、他に移っても結果を出せない」ととらえ、自分を厳しく立たせることです。

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