エリアごとに生き残れることが大事――猪瀬副知事が目指す、東京の危機管理(4/5 ページ)

» 2012年05月11日 16時14分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

少なくとも今年の夏の原発再稼働は避けるべき

――世田谷区長の保坂展人氏が区役所の施設の電力供給事業者を、東京電力からPPSに切り替えました。この動きは広がっていくでしょうか。

猪瀬 (全国の)販売電力量でPPSの占める比率はわずか3.5%しかありません。東京都もすでにPPSといくつも契約していて、世田谷区は東京都でやっていることを一緒にやっているということです。

 PPSは3.5%しかないので、そこでまた(需要者側の)競争が始まってPPSの(販売電力)価格が上がってしまっています。やはり自由な電源をどれだけ作るかがこれからのキーポイントということで、PPSと違って、先ほどのように隣の独占会社、さらに隣の独占会社、つまり9つの独占会社同士の競争をこれからどう行わせていくかがポイントになると思います。

 送配電網ということで、先ほど高速道路のような図を映しましたが、あそこにどういうインターチェンジを作るかが勝負なんですね。東京電力が送配電網を独占している限り、送配電網に支払うコストを東電に一方的に決められる、つまり高速道路料金を東電が一方的に決めるわけです。

 自然再生エネルギーを含めて、その高速道路に乗れるか乗れないか、そのコストをだれが決めるのか、公平な価格でその高速道路に入れるようにしない限り、自然再生エネルギーも含めて、これから増えていかないでしょう。今、「送配電網のコストを透明化しろ」と交渉しているところです。

――発送電分離についてどのようにお考えですか。

猪瀬 よく発電送電の分離という言い方をしますが、これは欧州で実現している形と米国で実現している形は少し違うと思います。日本の場合、いきなり発電と送電を分離することは多分できないと思います。従って、まずこの高速道路に入る料金の設定をいかに公平にするかということです。今、独立系の電力会社が入ろうとすると、ものすごく高い料金をとられています。

 それは例えば20%とられています。そういう高いコストで送配電網の利用料金をとっているので、まずそこで明確な送配電網の利用コストの原価をきちんと計算するところから始めていきたいです。発送電分離と評論家はよく言うのですが、それは抽象的なんですね。まずは段階を踏んでいくことが大事で、今回、株主提案として要求したのは東電の社内でも発電所と送電網をいったん社内カンパニーとして分離するという風な分社化を提案しています。それはコストの透明化につながるからです。

 ちょっと付け加えると先ほどの図で右上に原子力、火力、水力と3つ東京電力の発電所が書いてありましたが、左上のPPSの発電所は火力です。しかし、PPSから東京電力の送配電網を使った時、電源開発促進税が加わるんです。原子力発電所を持っていないPPSが、なぜ電源開発促進税という原子力にかかわる税金を発送料金の中で負担させられているのか。これはただの不公平で、おかしな話なのです。

――政府はエネルギー政策についてどのように考えているのでしょうか。

猪瀬 政府にたくさん専門委員会があって、それぞれ錯綜していて、どこが解決する場所なのか分かりにくいんですね。

 今日、(東京電力の)総合特別事業計画が公表されます。これまで意見を言ってきて具体的な提案もしてきましたが、その中にどのくらい盛り込まれているのかを確認してみたいと思っています。

 2011年暮れに政府が出した東電のコスト削減計画は2兆6000億円でした。この間、ファミリー企業の問題を指摘して、競争入札にするように提案した結果、今日の発表では約3兆3000億円のコスト削減になっています。もちろん、これは10年間でですが。それでいいかどうかはともかく、この間、指摘した問題はかなり反映されました。しかし、これは言わなければ反映されなかったということです。

――日本の原子力発電の未来についてどのように考えますか。

猪瀬 ドイツのように徹底した議論は行われてこなかったと思いますね。少なくとも今年の夏の原発再稼働は避けるべきだと思っています。ドイツは2022年までに17基ある原発をやめると決めていますが、日本の場合は福島の原発を今の状態から廃炉にするまでに40年かかります。その40年というタイムスパンをきちんと考えながら、どういうエネルギーミックスでこれからいくかということをきちんと議論すべきだと思っています。

 今、事故調査委員会の報告書が全部出ていないので、その結果を見ながら40年間の廃炉の流れの中でどういう順番で廃炉をしていくか(を決めていく)。スリーマイル島で(廃炉に)20年くらいかかっていますから、40年かかるということは廃炉技術の世界的な先進国になる可能性があると考えています。

――中央政治とは別に、地方政治ではどのようなことができるとお考えですか。

猪瀬 3月に帰宅困難者対策条例が都議会で通りました。帰宅困難者対策条例の考え方には、自己責任に基づくという部分があります。公、つまり政府が関与する部分と、個人あるいは会社が関わる部分との義務をそれぞれ明確に規定しています。

 帰宅困難者対策条例の中心は、民間企業も72時間の備蓄をするということです。お上に助けてもらうとすると、お上の倉庫まで行って、またそれを配るのに時間がかかってしまうので、自分の会社に72時間分の食料と毛布を備蓄してもらいます。まず自分たちがサバイバルするという部分を残しておくために、初めてそれを義務化する。ただし、罰則はありません。思想の問題だということを出しました。

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