エリアごとに生き残れることが大事――猪瀬副知事が目指す、東京の危機管理(2/5 ページ)

» 2012年05月11日 16時14分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

なぜ東京電力のガバナンスが欠如したのか

猪瀬 次画像右上は東京の新宿の高層ビルの(建っている)ところです。手前に3本見えるところがパークハイアット東京です。その地下に画像左上の冷暖房センターがあります。画像右上のずっと向こうに見えるエリアに、全部で22本の高層ビルがあります。それらにパークハイアット東京の地下から冷暖房の熱を供給しています。

 地下でつながって冷暖房熱を供給しているのですが、ここにさらに発電施設を増やして、東京直下型地震があっても、この地下の発電所から都庁の防災指令センターまで直接電気を供給できる形にして、指令機能を確保したいと思っています。つまり、いざという時に電源を分散して、各エリアで生き残れるような形がこれから求められると思います。

 六本木ヒルズの周辺10ヘクタールくらいも、テレビ朝日や六本木ヒルズ、ホテル、ホリえもんのいたマンションとかありますが、あのあたりも六本木ヒルズ地下の発電所で維持されています。これからフジテレビのあるお台場のあたりもこういう形になっていきます。大手町、丸の内、有楽町の一帯もいずれはこういう形になるのですが、まだ先の話です。

 つまり、福島や新潟といった遠い地方から電気が送られてきていますが、その途中でいろんなことが起きてミスが高まっている時でも、各エリアで島のようにして生き残れる形を作るのが一番大事です。子どもの頃、魚を釣る時ミミズをちぎって(釣りざおに)付けたことがありますが、ミミズはちぎれても動いていますよね。そういう形を考えています。

 次画像は都庁の副知事室ですが、名古屋の会社である中部電力(の渡邉穣専務ら)が来ています。日本は9つの電力会社がそれぞれのエリアで独占的に営業しているわけですが、東京電力管内である東京に名古屋の会社の中部電力を呼んで「東京管内で営業する気はないか」とこの日尋ねました。これは掟破りなんですね。

 名古屋の会社はトヨタ自動車で分かるように、非常にコスト意識が高くてケチな会社ですから、「東京電力管内の市場は魅力的か?」と聞いたら、「非常に魅力的です」と答えました。こうやってもし競争が起きれば、電力料金も変わってくるだろうということで、これは経済産業省が「コロンブスの卵だ」と言いました。地域間の独占を破って商売しても法律上は全然問題はないんです。ですから、これからはそういうことを誘発していくことが大事だと思います。

 次画像右は六本木にある東京リビングサービスという会社ですが、これは東京電力の社員の福利厚生施設のための会社です。この会社だけで従業員が1000人くらいいますが、本社には200人くらい。自分たちの福利厚生のための会社が六本木駅徒歩2分のところにある必然性はないのですが、これが全部電気料金に反映されてきます。

 東京リビングサービスが経営する高級レストランが渋谷にありまして、その高級レストランで東京電力の幹部社員がおいしい食事をして、その売り上げはこの東京リビングサービスの売り上げになるということです。

 次画像左(東京電力の電力販売量推移)は真ん中までが1990〜2000年で、真ん中から右が2000〜2010年です。つまり、電力需要は1990年代にまだ増加しています。つまり東京電力の電力販売はまだ伸びています。しかし、2000〜2010年には平らになります。

 その平らになった時、次画像右の棒グラフを見ていただくと分かるのですが、2000年から子会社がドーンと増えます。つまり、1990年代に伸びていた電力販売量が頭打ちになった時、2000年のところで子会社が増えた。(東京電力の)5兆円の売り上げのうち、5000億円くらいは子会社で稼いでいるのですが、それは全部電気料金として跳ね返ってくるという構造です。

 電力料金というのは、非常に価格の透明性が低い形で我々は請求されるわけです。だから、電力の自由化が欧州でも米国でもどんどん進んでいます。日本は「まず電力をきちんと供給しなければいけない」という高度経済成長期の考え方があって、そのおかげで電力が十分供給され経済成長してきました。しかし、これ以上設備が必要でないという段階に達した時、日本の電力会社は改革をすれば良かったのですが、しなかったがために現在のこういう事故を招くようなガバナンスの欠如した状態が生まれたと思っています。

 次図は電力供給システムを絵に描いたものですが、原子力発電所や火力発電所、水力発電所と東京電力の発電所を右上に書いています。左上には独立系の発電所(PPS)。高速道路のように送配電網に公平にアクセスできるかどうかで、今後の電力供給が決まってくると思うのですが、東京電力が扱う送配電網が社内カンパニーとして別に分離されるべきという見通しで考えています。

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