それでも桜は咲くのだ。花見ができなくなろうが東日本大震災ルポ・被災地を歩く(2/4 ページ)

» 2012年05月05日 00時01分 公開
[渋井哲也,Business Media 誠]
夜ノ森公園の基準木。公園のロータリーにある桜が満開だ

 「夜ノ森」の由来は、岩城藩と相馬藩の領有を巡って争い、「余(=私)の森」と主張したことが由来とされている。1900年に農村開発のモデルとして、新しい村を作るために夜ノ森公園を入手した、相馬藩主・半谷常清の長男、清寿が、その記念に桜300本を植えたのが始まりだ。

 夜ノ森の桜並木は、福島第一原発から約7キロ地点にある。1000本以上の桜が道路の両側に立ち並び、桜のトンネルを形成している。その長さは約2500メートルで、夜ノ森の駅前でL字型に曲がり、健康増進センター「リフレ富岡」、富岡二中方面まで続いている。

 クルマを利用する場合は、常磐道富岡ICから約3キロ。国道6号線を夜ノ森交差点で西側に曲がり、県道36号線をまっすぐに進むと、すぐに桜並木が見えてくる。電車を利用する場合は、JR常磐線夜ノ森駅で下車。徒歩3分ほどで桜のトンネルを見ることができる。その通りの中間には夜ノ森公園、リフレ富岡の近くには「基準木」がある。

 原発事故前であれば、多くの人が観光で訪れていた。しかし、原発事故により立ち入りが制限される「警戒区域」に設定されたために、観光客はおろか、一般住民でさえ、花見ができなくなった。それでも桜は咲くものだ。そこで、富岡町では、メディアに対して夜ノ森の桜を公開した。夜ノ森の桜の開花を楽しみにしていた町民たちを元気づけるためだ。

 私も富岡町に申し入れ、メディア向けの一般公開に同行した。新聞やテレビ、雑誌の記者、カメラマンが役場職員と同行し、双葉郡楢葉町のJビレッジ近くの検問所を通過して、夜ノ森の桜並木を目指した。行く途中の楢葉町でも桜が咲き始めていた。富岡町の住民に限らず、故郷の桜が開花するのを楽しみにしている人も多い。一週間しか咲かない桜だが、地元の人にとっては、その桜に数々の思い出が刻まれている。

 「基準木」は夜ノ森公園ロータリーにある。公開された4月19日の天気は曇り。ほぼ満開に近かったために、晴れていなくて残念だった。また人々がおらず、報道陣と役場職員、そして工事関係者が通りすぎるだけの桜並木はちょっと異様に感じる。桜並木は、やはり花見をする人がいることがセットではないかと撮影していて思った。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.