アニメから実写へ、CGが変える映画監督のキャリアパスアニメビジネスの今(4/4 ページ)

» 2012年05月01日 08時01分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]
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世界における日本のアニメ制作手法の位置付け

 かたや日本のアニメはどうか。今なお手描きのセルアニメが主流の日本のアニメ界では1990年代中盤から好況だったこともあり、表現そのものをデジタル化する機運は生まれなかった。その中にあってデジタルの役割は、もっぱら作業の効率化であった。

 具体的にはデジタル化できない作画領域以外の工程のデジタル化である。これに関しては取り込めるものは貪欲に取り込んでおり、現在ではセル(2D)とCG(3D)の中間とも言える「2.5D」といった独自の新領域を形作るに至っている。

 こういった日本の状況は、アニメーション表現がハリウッドを中心として世界的にCGアニメーションにシフトしつつある中では弱みとも言えるが、逆に強みでもある。なぜかと言えば、おそらく世界的に見てセルアニメを指向する国は日本以外では減りつつあるからだ。

 セルアニメは個人の才能や技術に頼ることが大きく、当然その人材育成に時間がかかる。また、実作業でも手間暇が恐ろしく必要である。そのようなセルアニメより、コンピュータの恩恵が受けられるCGやフラッシュといった制作手法に向かうのは、ある種当然のことである。

 事実、日本の3倍以上のアニメ制作量となった中国ではCGやフラッシュ、アフターエフェクトといった制作手法の作品が多い。

中国で人気のCGアニメ『喜羊羊与灰太狼』

 セルアニメーションは技術の習熟に時間がかかることはもちろんだが、中国の場合、文化大革命によってセルアニメーションの文化がいったん途絶しかけたという事情もあって、例え国からの援助がどれほどあろうとも、クオリティを問わないのならともかく、一朝一夕に増やすのは不可能である。そのためデジタルの力を借りた生産性の高いアニメ制作に向かわざるを得ないのである。

日本のセルアニメは今を生きる文化

 数値化が難しい手描きアニメは、今のところデジタルの恩恵を受けにくい表現分野である。過去何度も動画の自動中割システムなど、作画の自動化・効率化に対する挑戦があったが成功に至ってない。

 そんなセルアニメ作りを"伝統工芸"の域に入っていると言う人もいる。米国の教育機関におけるアニメーション教育の眼目は完全にCGアニメーションに移っており、手描きアニメは「アート」に分類されているとの証言もある。そういう状況の中で、今なおセルアニメを進化させようとしている日本は独自の生体系を作りつつあると言えるだろう。

 ただし、手法的には伝統工芸化しつつあるかもしれないが、それと異なるのは需要の多さである。アニメは今を生きる文化なのだ。それは、輪郭線に代表される二次元的表現が今なお民族に染み付いているからだろう。アニメーションが世界的に三次元トレンドとなりつつある中、逆に日本のアニメはこの二次元表現を世界へと伝道する存在なのかもしれない。

増田弘道(ますだ・ひろみち)

1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。

ブログ:「アニメビジネスがわかる


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