アニメから実写へ、CGが変える映画監督のキャリアパスアニメビジネスの今(2/4 ページ)

» 2012年05月01日 08時01分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

CGアニメーションを転機として大復活したCARTOON

 実は『ライオン・キング』を頂点として、その後米国のアニメーションが死にかけた時期がある。「えっ、あのディズニーのハリウッドアニメーションが?」と思うだろうが、セルアニメーションという意味では確実に終末を迎えつつあったのだ。

 次表を見てほしい。ウォルト・ディズニーの死後、1960年代末から1980年代にかけて不振を極めていたディズニーアニメーション。

 しかし、マイケル・アイズナー、ジェフリー・カッツェンバーグ、フランク・ウェルズらの中興の祖たちが、ハワード・アッシュマン、アラン・メンケンなどのクリエーターと組むことにより、『美女と野獣』(1991年、1億4586万ドル)、『アラジン』(1992年、2億1735万ドル)、そして歴代アニメーション興行トップとなった『ライオン・キング』(1994年、3億1285万ドル)などで大復活した。

ディズニーのセルアニメーション映画興行収入の推移(BOXOFFICE MOJOを参考に著者作成)

 ところが、1990年代中盤以降、急速に興行収入がしぼみ始め、『ホーム・オン・ザ・レンジ』(2004年)で90年に渡るセルアニメーション制作の歴史に幕が下りることとなった。『プリンセスと魔法のキス』(2009年)でいったん復活したものの、1億440万ドルという微妙な興行収入のためか、その後セルアニメーションを制作するという話は聞かれなくなった。

 この危機的状況を救ったのがCGアニメーションであった。1995年に世界初のフルCGアニメーション『トイ・ストーリー』がリリースされ、興行収入1億9179万ドルと年間トップを獲得。その後、ピクサーとドリームワークスが両輪となって続々とヒットを飛ばし、2000年以降は完全にアニメーション産業の主流となった。このようなセルアニメーションとCGアニメーションの逆転現象はなぜ起こったのだろうか。

 世界的に見て、アニメーションは圧倒的に子どものためのものである。大人のアニメがある日本は特殊な環境であり、米国でさえアニメーションはいまだに"CARTOON(漫画映画)"であくまで子どものものなのである。

 ところが、CGの出現によってアニメーションの新しい可能性が示された。映像産業におけるCGの目的は、本来実写では表現不可能なものをどうやって実現するかということにあり、それまでは特撮でカバーしていた領域を代置するものとなった。そして、実写と見まごうまでの完成度となった時、CARTOONにおいても一大革新が起こったのである。それはリアルな表現の獲得である。

 本来漫画という2次元表現に端を発する(Animated)CARTOONが、CG技術によって実写同様のリアリティを得られるようになった。これによって、「CARTOONなど子どもの見るもの」と最初から馬鹿にしていた層を取り込むことに成功したのである。既述の『シュレック2』が『ライオン・キング』を超える空前のヒットとなったのは、明らかに大人まで観客層を広げることができたからである。

 想像してみてほしい。『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『シュレック』のキャラクターが、もしセルタッチだったらどうだったろうか。米国の甘ったるいキャンディのようなベタベタな感じとなり、とても大人が見られるものではなかったのではないだろうか。

 このような経緯のもと、アニメーション業界は否応なくアナログからからデジタルへ移行していくことになるのだが、それに伴い米国ではセルアニメーションからCGアニメーションへと人材の移動が地滑り的に起こったのである。そして、米国のアニメーション産業はCGを媒介として一気に実写との距離を縮めたのである。

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