アニメから実写へ、CGが変える映画監督のキャリアパスアニメビジネスの今(1/4 ページ)

» 2012年05月01日 08時01分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

アニメビジネスの今

今や老若男女を問わず、愛されるようになったアニメーション。「日本のアニメーションは世界にも受け入れられている」と言われることもあるが、ビジネスとして健全な成功を収められている作品は決して多くない。この連載では現在のアニメビジネスについてデータをもとに分析し、持続可能なあるべき姿を探っていく。


 4月に日本でも公開されたウォルト・ディズニー生誕110周年記念映画『ジョン・カーター』は、破格と思える2億5000万ドルもの予算をかけた超大作。もしこの数字が大本営発表でなく、宣伝費とあわせて4億ドルという業界筋の憶測が本当なら『アバター』並みのヒット(歴代北米興行収入1位の7億6050万ドル)が必要だろう。

 しかし、4月30日現在の売り上げは6911万ドル(3月9日公開)。残念ながらハリウッドの合格ラインである1億ドルにも達せず、ワールドワイドでも2億6970万ドルと大不発に終わってしまったようだ。

 100周年記念だった大作『アトランティス失われた帝国』(2001年)の時も8405万ドルといまひとつであったところを見ると、ディズニーにおいてさえ宣伝文句としてアニバーサリーをうたうことの限界が来ているのかもしれない。果たして次の120周年記念作品はあるのだろうか?

映画『ジョン・カーター』 - オリジナル予告編(日本語字幕)

 それはともかくとして、『ジョン・カーター』の監督をご存じだろうか? 公開前に来日したので耳にした人もいるかと思うが、その名はアンドリュー・スタントン。『ジョン・カーター』で初の実写映画監督デビューを果たした。

 一方、2011年末のヒット作品『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(興収2億939万ドル)の監督は誰か? こちらも実写映画初監督のブラッド・バードだが、実はこの2人、非常に多くの共通点を持っている。

 まず、何よりもアニメーション※業界ではヒットメーカーとして知られた人物であるということ。アンドリュー・スタントンは大ヒット作『ファインディング・ニモ』(2003年、興収3億3971万ドル)、『ウォーリー』(2008年、2億2380万ドル)、ブラッド・バードは『Mr.インクレディブル』(2004年、2億6144万ドル)、『レミーのおいしいレストラン』(2007年、2億644万ドル)といったピクサー作品の監督として有名である。

※本稿では日本製のアニメを「アニメ」、米国製のアニメは「アニメーション」と呼んで、意図的に区別する。

 また、共にウォルト・ディズニーの主導のもと設立されたカリフォルニア芸術大学(通称カル・アーツ)出身、『トイ・ストーリー』シリーズのジョン・ラセター監督の後輩なのである。そして、アニメーターからスタートし、キャリアアップを重ねながら監督になった。

 脚本家、声優などを兼ねた多才ぶりも似ており、セルアニメーションからCGアニメーションへとかじを切った点も同じだが、1990年からピクサーにいたスタントンより、1999年にセルアニメーションの名作『アイアン・ジャイアント』を手がけたバードの方がそのキャリアパスはより際立っている。

シームレスになりつつあるCGアニメーションと実写

 すでにアニメーション監督として名をはせているこの2人が、なぜリスクの伴う実写映画に挑戦したのだろうか。

 これには、もちろん米国人が持つ旺盛なフロンティア精神というものもあるだろうが、実はハリウッドを見るとこの2人に限らず、セルアニメーションからCGアニメーション、そして実写映画へという道が、監督のキャリアパス、あるいは選択肢として生まれつつあるようなのだ。スタントンとバードはその代表的存在であるが、ほかにも実写を手がけるようになったアニメーション監督が生まれつつある。

 スタントンやバード以上の実績を残しているアンドリュー・アダムソンは大ヒットしたドリームワークスの『シュレック』(2001年、2億6766万ドル)、公開時に歴代北米興業史上4位の大ヒットとなった『シュレック2』(2004年、4億4122万ドル)を経て、『ナルニア国物語』の1作目(2005年、2億9171万ドル)と2作目(2008年、1億4162万ドル)を監督。北米で12月公開予定のシルク・ドゥ・ソレイユをテーマとした次回作はすでに完成しており、さらなる大作実写映画に取り組んでいる最中である。

 やはりドリームワークスの『シャーク・テール』(2004年、1億6806万ドル)、『モンスターVSエイリアン』(2009年、1億9835万ドル)の監督であるロブ・レターマンは、ジャック・ブラック主演の『ガリバー旅行記』(2010年、4277万ドル)を手がけた。次回作も超常現象を扱ったオリジナルの実写映画を監督する模様だ。

 これもまたドリームワークスの『シュレック フォーエバー』(2010年、2億3873万ドル)を監督したマイク・ミッチェルは元々実写畑の出身だが、この作品を手がけてのち、実写とアニメーション合成の『アルビンとチップマンクス3:チップレックド』(2011年、1億3294万ドル)を撮るなど、アニメーション寄りのスタンスを見せている。

 アニメーターからからスタートし、『ホートン/ふしぎな世界のダレダーレ』(2008年、1億5452万ドル)で監督デビューを果たしたジミー・ヘイワードは、DCコミック原作の実写映画『ジョナ・ヘックス』(2010年、1054万ドル)を撮った。次回作は再びアニメーションを撮る予定だ。

 『くもりときどきミートボール』(2009年、1億2487万ドル)で才能を見せた(個人的な評価であるがかなり面白かった)、若き監督コンビ、フィル・ロードとクリス・ミラーはジョニー・デップの出世作となったテレビシリーズ『21ジャンプ・ストリート』の映画版の撮影をすでに終えた。次回作は世界的玩具「レゴ」をテーマとしたコメディ実写映画に取り組んでいると聞く。

 これらの動きを見ると、どうもハリウッドではアニメーションと実写映画がシームレスになりつつあるようだ。もっともハリー・ポッターやトランスフォーマー、パイレーツ・オブ・カリビアンなど、最近BOXOFFICEの上位にランクされる作品自体、ジャンル的には実写に判別されるが、表現的にはCGアニメーションを多用しており、その区別が判然としないものが多いので、制作手法的には相当近付いているのは確かだ。

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