誰がオリンパス事件を引き起こしたのか誠 Weekly Access Top10(2012年4月14日〜4月20日)

» 2012年04月27日 12時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 先週最も読まれた記事は「「日本は三流の国」と言われた――マイケル・ウッドフォード氏インタビュー」。2位は「ゆとり教育で育った世代は、本当に仕事ができないのか」、3位は「偏差値60以上と50以下の高校生、こんなところに違いが」だった。

誰がオリンパス事件を引き起こしたのか

 オリンパスを解任されたマイケル・ウッドフォード氏をインタビューした時、本筋以外の話として聞きたかったことがある(「『日本は三流の国』と言われた――マイケル・ウッドフォード氏インタビュー」)。それはウッドフォード氏の社長解任を主導した菊川剛元会長への感情だ。ウッドフォード氏の著書『解任』ではプライベートな付き合いはほとんどなかったものの、仕事上は非常に良い関係であったとつづられている。しかし、その関係は事件以来大きく変わってしまった。

マイケル・ウッドフォード氏

 一連のオリンパス事件は、大きく3つの段階に分けられる。1つ目は、5代前の下山敏郎社長のもと、森久志氏や山田秀雄氏らが行った資産運用で大きな損失を抱えた段階(これは財テクなので犯罪ではない)。2つ目は、4代前の岸本正寿社長、3代前の菊川剛社長のもと、その損失を飛ばしという手法で隠した段階。そして3つ目は菊川社長のもと、英国の英医療器具会社「ジャイラス」の買収で過剰なコンサル料を支払ったり、国内ベンチャー3社を高額買収したりして、損失を不正な粉飾会計で処理した段階である。

 菊川氏の社長時代に行われた3つ目について最初に『FACTA』が報道し、かつその後のウッドフォード氏の社長解任を主導したのが菊川氏であったので、菊川氏が一連のオリンパス事件のすべての原因であるかのように思っている人も多いかもしれない。

 しかし、3つ目は2つ目の結果として行われたのだが、第三者委員会の報告書を信じるならば、2つ目の元凶は森氏や山田氏、および岸本氏で、菊川氏は2つ目の途中から加わった形となる。菊川氏は2つ目に関しては主犯の1人ではあるのだが、元凶とはなっていないのである。

 菊川氏は社長就任直前、どこかの段階で飛ばし行為を伝えられたわけだが、そこでは飛ばしを止める道と、そのまま続ける道の2つの選択肢があった。これはある意味、ウッドフォード氏が『FACTA』の記事を見て、粉飾会計を知った時と似たような状況である。結局、菊川氏は後者を選び、ウッドフォード氏は前者を選ぶこととなった。

 もちろん社会的には許されざる行為なのだが、ある程度まで飛ばしが進んでいたために前者を選ぶと血を見るのは必至、後者ならうまくいけば何事もなかったかのように処理できるかもしれない。菊川氏の心理状況は報告書に書かれていなかったのだが、筆者が同じ状況に置かれたなら前者の道を選べただろうか、ウッドフォード氏も『FACTA』の報道なしに状況を知らされたなら告発できただろうかと思ったりもした。

 ウッドフォード氏は当初、菊川氏自身が粉飾会計によって不正な利益を得ていたと見ていたのではないだろうか。しかし、第三者委員会の報告書からは、完全に私利私欲というわけではなく、不正を引き継がざるをえないサラリーマン社長の悲哀というものも伝わってきた。

 筆者と同じような感情をウッドフォード氏も抱いていたのではないか。インタビューの最後、彼の写真を撮りながら、菊川氏への見方が変わったのか聞いてみた。彼はしばらく考え、「ただ菊川氏は、私と私の家族を危機に陥らせたからね」とつぶやいた。いまだネガティブな感情は持っているが、そこには多少の変化もあったように感じた。

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