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» 2012年04月25日 08時00分 UPDATE

それゆけ! カナモリさん:ネスレのコーヒーマシン「バリスタ」の壮大な計画 (1/2)

ネスレ日本が2009年に発売したコーヒーマシン「ネスカフェ バリスタ」が2012年2月までに販売台数80万台を突破と気を吐いている。同社の戦略を勝手に分析してみよう。

[金森努,GLOBIS.JP]
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それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2012年4月20日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 かつては「オトナの飲み物」として、全国の家庭どこにでもあったガラスびん入りのインスタントコーヒー。しかし少人数・単身世帯の増加に伴い個食化が進み、また、スターバックスコーヒーなどに代表される多様なバリエーションでの“外飲みコーヒー”が定着するに連れ、その売り上げは減少の一途をたどっていた。

 ところが2011年、インスタントコーヒー市場の対前年比は105%と再度、増加に転じる(2011年1月〜10月、インテージMFI調べ)。これをけん引した立役者が、ネスカフェが投入した表題のコーヒーマシン「ネスカフェ バリスタ」なのだという。

アフターマーケティングでコーヒーを売る

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 お湯や水に溶かすだけで飲めるコーヒーのことをインスタントコーヒー、またはソリュブルコーヒー(可溶性コーヒー)などと呼ぶが、バリスタの最大の特徴は、ネスカフェのインスタントコーヒー「ネスカフェ エコ&システムパック」(バリスタの発売当時は「ネスカフェ チャージ」)をカチッとセットするだけで、エスプレッソやブラックコーヒー、カフェラテ、カプチーノまでも楽しめる手軽さにある。

 一般に、コーヒーマシン、あるいはエスプレッソマシンと呼ばれる製品は、細かく挽豆したコーヒーか、専用の使い捨てカートリッジを用いるものが過半で、前者は洗浄などメンテナンスの手間、後者は(スーパーやGMSなどのルートには乗らない直販タイプが多いため)入手の手間がユーザーにとってはハードルとなっていた。

 そこに登場したのがバリスタである。もともとガラスびん入りの「ネスカフェ」の詰め替えパックとして流通していたエコ・コンシャスな紙パック入りのインスタントコーヒーを“専用カートリッジ”的にセットするだけ。もとよりすべて水に溶ける特質からゴミも出ず、頻繁な機械洗浄などの手間もない。無駄な圧力がかかったりしない理想的な状態でコーヒーマシンにインスタントコーヒーが供給でき、空気に触れる機会もないため酸化せずおいしさを維持できるという。

 しかも、バリスタの機械本体は7980円と非常に安い。マシンの質感もデザインも1万〜3万円が中心価格帯の他メーカーのマシンと比べて遜色なく、これが「ペネトレーションプライシング」であることは一目瞭然である。利益率を低く押さえ、シェアを一気に奪取する価格設定だ。結果、2009年の発売以来、2012年2月までに80万台を売り上げるヒット商品となった。実際、楽天市場などでコーヒーマシンの売れ筋ランキングなどを見ると、今や上位10位の過半をバリスタとその派生製品が占めている。

 では、なぜこの価格設定が成立したのか。すでに「ピン!」と来ている方も多いだろう。ネスレが売りたいのはバリスタではなく、エコ&システムパックなのだ。

 バリスタとエコ&システムの関係は、プリンタとインクカートリッジに置き換えて考えると分かりやすい。プリンタはその精密な機能にもかかわらず、実売価格は極めて安いと言えるだろう。それは、利益は専用インクカートリッジで取るからだ。顧客に使い続けさせることで、利益を出す。これを「アフターマーケティング」という。ネスレの狙いもそこにある。

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