「日本は三流の国」と言われた――マイケル・ウッドフォード氏インタビュー(2/4 ページ)

» 2012年04月19日 06時55分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

日本のあらゆる企業のイメージがダメージを受けている

――コーポレート・ガバナンスを機能させるため、ほかにどういったことが必要と考えていますか。

 率直に言って、法的な問題や企業内組織の問題ではなく、やはり国民次第だと思います。私から見て、日本国民は眠っています。なぜ眠り続けていられるか分かりかねます。

 日本の機関投資家がこの国を傷つけています。法の支配や社会的な福利厚生が、機関投資家の無責任な行為によって犠牲になっているんですよ。それに対して、国民は怒らないんですか。なぜ飛び上がって抗議しないんですか。革命とまではいかないとしても、やはり国民が今の体制を打破しようとしない限り、良くはならないでしょう。

 これはオリンパス1社だけの問題だけにとどまらず、日本のあらゆる企業のイメージが世界の資本市場で非常に大きなダメージを受けているのです。(オリンパスの)海外の大株主9社が連名で出した手紙をご覧になりましたか? 海外では、怒られている以上に馬鹿にされているんですよ。それに対して怒りはしないのですか。

 失われた10年間とよく言われますが、「次の10年間はどうなっていってほしいのですか」ということです。このままだとどのように衰えていくか、ソニーやパナソニックと、サムソンやLGを比較すると明らかになりつつありますね。

 日本に良いものが何もないのならともかく、教育水準は高いし、技術力もあるし、すばらしい人材にも恵まれているんです。何がないかといえば経営層、経営術です。

――経営層が育たない理由についてどうお考えですか。

 私は必ずしもお答えできないのですが、ここには当然、社会的、歴史的な要因が多く働いています。ただ、一般論として言えるのは、「経営=リーダーシップ」とすれば、指導者は目立つ人でなくてはいけません。そして時と場合によっては、相手に立ち向かう姿勢をとらなくてはならないことがあります。日本は非常に平和重視、コンセンサス重視で、それはそれで良い面もいっぱいあるのですが、その中で強いリーダーは生まれてきません。

 私が見る限り、各社では男性の老人ばかり指導権を握っているので、このままでは会社が活力を発揮して成長していけそうにありません。また、日本の人口の半分以上は女性で、女性はもちろん労働市場には進出しているのですが、経営層に進出している割合は先進国の中で低い方ですよね。その潜在的な力をもっと生かさないといけないですね。私はオリンパスにいた時、30代の人を部長などに登用しようとしたら、いつも抵抗を受けました。もっと30代の人を生かさないとダメですよ。

 日本政府の債務はGDPの2倍で、ギリシャの1.6倍よりひどいですよね。そして人口動態は非常に厳しく、地震が多いことは言うまでもありません。その中で、この国本来の強みを生かせる経営者を育てるか迎え入れないとダメなんですよ。

 私は短期的には楽観していません。みんな、特に若い人ほど何かのんびりしているんですよね。一部の若い人たちはとても有能で経営に向いていると思うのですが、若い人ほど逆に保守的な傾向があって、「海外転勤したくない」と言うことがちょっと不思議です。

 ただ、長期的には本格的な危機に陥ったら変わるでしょう。1970年代の英国では衰退が続き、「このままでは国がつぶれるのではないか」と思うくらいの状況までいった時、マーガレット・サッチャーが登場したんです。私は政治的にどちらかというと左寄りなので、彼女を好きな方ではないのですが、その時、国が彼女を必要としていたんです。日本もそういう時代に入りつつあるので、完全に行き詰まったところで指導者が出てくるでしょう。

 昔、私が訪ねたことがあるリバプールの自動車車両工場を先日見学したのですが、40年前はどうしようもなく効率の悪い工場だったのですが、今は世界最高級の工場になっています。英国が立ち直ったように、日本もいずれは立ち直るかもしれませんが、このままでは必要以上の痛みを伴う立ち直りになってしまいます。

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