先週最も読まれた記事は「ゆとり教育で育った世代は、本当に仕事ができないのか」。2位は「借金大国日本で“踏み倒す人”が急増している理由」、3位は「北朝鮮の“人工衛星”打ち上げが意味すること」だった。
先週末に掲載した「ライトノベルで農業を描いてみたらこうなった――『のうりん』著者インタビュー」。ライトノベルというと剣と魔法の世界や学園モノなど、社会とは少し離れた題材が目立つもの。そんな中、『のうりん』は農業をテーマに社会との接点を持った異色の作品となっている(学園モノではあるのだが)。
社会との接点を持っているという意味で、筆者はもう1作品注目しているライトノベルがある。それは夏海公司著『なれる!SE』という作品。とあるシステム開発会社に就職した新入社員が、ツンデレ美少女の教育係のもと、時に厳しく指導され、時に放置プレイされながら奮闘する物語だ。
『のうりん』も『なれる!SE』も読むとある程度の業界の知識が得られるのだが、知識なら専門書を読めばもっと詳しいものが得られる。では、物語で描かれることにどういう意義があるかというと、そこで生きる人たちの感覚が伝えられることにあると思う。
例えば『なれる!SE』1巻には、次のようなネット接続設定をするシーンが登場する。
「あんたがここ二日かけてやった作業、その結果よ」
ごくりと唾を呑み込む。工兵はキーボードを見つめた。右手の中指がエンターキーの上で止まっている。この指を下ろせば結論が出る。自分のコンフィグが正しかったか証明される。
(中略)
画面を数字とアルファベットが流れていく。
Reply from――意味は……応答あり。
つな……がった?
工兵は喘いだ。
一瞬遅れて、ざわりと鳥肌が立つ。なんとも言えない感覚が意識を満たした背筋がぞくぞくする。うわ、やばい。なんというか、これは――
「気持ちいいでしょ」
振り向くとすぐ傍に室見の顔があった。瞳に艶っぽい光をたたえ画面を覗き込んでいる。女は全てを見透かすような表情で工兵に告げた。
「あんたの作ったネットワークよ」
もともと作者がSEだったことから、こうした感覚を描けるのだろうが、これは技術書などからは得られないものである。
どんな仕事でも、特別な瞬間というものはあるもの。農作業の合間にふと見上げた空に魅了される感覚、自分が関わった製品を使っている人を見かけた時の感覚……。
これから社会に出ようとする若者も多く読むライトノベルで、こういう感覚が伝えられることには大きな意味があると筆者は考える。こうした物語がどんどん増えていくと、世の中の風通しももっと良くなるのではと期待しているところだ。
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