寓話がビジネスパーソンに与えてくれる教訓(2/3 ページ)

» 2012年04月18日 08時00分 公開
[村山昇,INSIGHT NOW!]
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「魔法使いの弟子」から何を学びとるか

 では、「比喩の展開」を考えていこう。「比喩の展開」とは、「比喩表現を他の物事へ応用する」思考のことである。

 「魔法使いの弟子」という寓話(教訓や風刺を含んだ例え話)をご存じだろうか? ドイツの文豪ゲーテは、この古い寓話を詩文に取り込み、それをフランスの作曲家ポール・デュカスが、1897年に交響詩として楽曲化した。そしてこの寓話は1940年、ディズニー製作のアニメーション映画『ファンタジア』によって幅広く知られることとなる。映像化されたシーンはこんな感じだ。

 ミッキーマウスふんする魔法使いの弟子は、師匠から水くみを命ぜられ、両手に木桶を持って家の外と中を往復している。折しも師匠が出かけていなくなり、ミッキーはここぞとばかり、見よう見まねの呪文を箒(ほうき)にかける。すると、箒は木桶を両手に持って歩き出し、自分の代わりに水くみを始める。しめしめとミッキーは居眠りをする。しかしその間にも水はどんどん溜まり続け、ついにはあふれ出す。

 ミッキーは目を覚まし、あわてて箒を止めようとするが、箒にストップをかける呪文が分からない。ミッキーは斧を持ち出して、箒を切り刻んでしまう。ところが切られた破片がそれぞれ1本の箒となって蘇り、水くみを始める始末。箒の数は幾何級数的に増えていき、ミッキーは洪水状態の家の中であっぷあっぷとおぼれる……。

 さて、この寓話からあなたは何を学び取るだろう。ある人は「怠け心は結局得にならない」と日常生活への知恵にするかもしれない。また、ある人は「技術は中途半端に用いると危険だ」と自分の仕事のことに当てはめて考えるかもしれない。さらには、これを現代文明への警鐘として受け止める人もいるかもしれない。

 米国の評論家・歴史家であるルイス・マンフォードは、『現代文明を考える』(講談社、生田勉・山下泉訳)の中で、この寓話を取り上げ、こう書く。

 大量生産は過酷な新しい負担、すなわち絶えず消費し続ける義務を課します。(中略)『魔法使いの弟子』のそらおそろしい寓話は、写真から美術作品の複製、自動車から原子爆弾にいたる私たちのあらゆる活動にあてはまります。それはまるで、ブレーキもハンドルもなくアクセルしかついていない自動車を発明したようなもので、唯一の操作方式は機械を速く働かせることにあるのです。

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