なぜジブリは国民的映画を創り続けるのか新連載・アニメビジネスの今(3/4 ページ)

» 2012年04月17日 08時01分 公開
[増田弘道,Business Media 誠]

興行収入は1作平均107億円

『千と千尋の神隠し』

 ジブリの中心となっている宮崎監督。『千と千尋の神隠し』でアカデミー賞長編アニメーション部門作品賞を受賞したことからも分かるように、演出に対する評価は国際的にも高いが、ビジネス的に見た実績も圧倒的だ。

 米国では監督や俳優ごとに、参加した作品のトータル興行収入を算出しているWebサイトがいくつかある。監督を興行収入で評価するのは日本では馴染まないかもしれないが、ジブリにおける宮崎作品のトータル興行収入は『風の谷のナウシカ』から『崖の上のポニョ』までで実に966億円※。次回作で間違いなく1000億円を突破するだろう。1作当たりでみると、約107億円となる。

※『風の谷のナウシカ』はスタジオジブリの前身となるトップクラフトが制作。その前に宮崎氏が監督した『ルパン三世 - カリオストロの城』は除いた。

 『The Numbers』によると、スティーヴン・スピルバーグ監督の1作当たりの北米平均興行収入は1億4749万ドル、1ドル=80円として約118億円となる。それは日本の2.75倍の人口を抱える北米(米国+カナダ)での数字なので、改めて宮崎監督のすごさが分かるだろうが、日本でかろうじて比肩しうる存在がいるとすれば、やはり同様に「国民的存在」と言える黒澤明監督だろうか。

 チケット価格の違いを考慮した場合、トータルの興行収入では作品数の多い黒澤明監督が上回っている可能性がある(黒澤31作品、宮崎10作品。黒澤監督に関しては古い興行収入のデータが無いため算出不可)。しかし、1作当たりの興行収入では宮崎監督が圧倒的に勝っているだろう。

 ともかく1作当たりの興行収入が100億円超という監督は、日本では空前にして絶後である。ハリウッドでも世界一の映画市場である北米興行収入のトータルが10億ドルを超え、かつ1作当たりの興行収入が合格ラインとされる1億ドル以上の監督は、ジェームズ・キャメロン、スティーヴン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカスら11人しかいない。この日本史上最大の大ヒット監督がいるからこそ、ジブリはリスクの大きい劇場オリジナルアニメ中心のビジネスモデルを維持していけるのである。

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