私は、人と人、もしくは人と組織との関係において2つのタイプがあると考えます。それは、“永遠の誓い”関係と“一時(いっとき)の目的共有”関係です。結婚は前者の典型で、学校は後者の関係に属します(人生のある期間、修学目的を共有するという解釈)。
転職に何か会社への裏切り行為のようなネガティブなイメージが付きまとっているのは、戦後の高度経済成長期から慣行としてきた終身雇用制の下で、労使間が暗黙のうちに結婚にも似た“永遠の誓い”関係を前提にしてきたからなのでしょう。つまりそこでは「別れは約束破りであり、悪である」という意識が芽生えるわけです。
ですが、世は平成に入り、会社と働く個人の関係が変わり始めました。会社も終身雇用を言わなくなり、ヒトは流動するものと認識が変わってきました。現在のビジネス社会では、会社とその従業員は、ある期間、事業目的を共有して利益活動をするという関係でとらえる部分が大きくなりました。
ですから、ある目的を終え、次の目的が互いに共有できなくなれば、ヒトがそこを去っていくのはやむかたなしと肯定的な流れになっています。
IBMやアクセンチュア、リクルートといった企業は人財輩出企業として有名で、転職者は多いです。そしてその企業のOBやOGたちは、有形無形、直接間接に自分たちが巣立った会社と関係を持ちながら、業界全体を育てている事実があります。
彼らの意識においては、個人と企業の関係は、「永遠の契りを結ぶ男女」関係というよりも、「学生と学び舎(学校)」の関係に近いのでしょう。在学中はその学び舎で一生懸命勉学に励み、いったんは卒業しても母校として懐かしみ、恩義を感じる。そんな感じの関係です。
“良い転職”というのは、会社への“裏切り”ではなく“巣立ち”です。転職後も、もとの会社やもとの上司・仲間たちと良好な関係を維持することはまったく可能なことです。その会社に恩返しできることもたくさんあるでしょう。ですから、それが“良い転職”であるならば、転職に罪悪感は不要です。(村山昇)
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