しばらくすると、カーナビが指し示すのと違う方向にクルマが曲がった。「あれ、どこ行くの?」とホリウチくんは話しかけるが、電源ガールは答えない。私鉄の駅前ロータリーに停車すると、電源ガールは静かにクルマを降りた。ホリウチくんも慌ててクルマを降りる。
「じゃあ、ね、ホリウチくん。お世話になりました。ありがとう」「えっ、どういうこと?」「どういうこともなにも。駅まで連れてきてあげたから、あとは電車に乗って帰ってね」「えーっ、埼玉までって言ったじゃない」「だってここ、もう埼玉だもん。さっき、東京と埼玉の県境を越えたよ?」
確かに県境を越えれば埼玉だが……電源ガールは笑顔でこちらを見ているが、目が全く笑っていない。
「電源ちゃん。……もしかして、怒ってるの?」
「怒ってない」
「怒ってないなら、じゃあ、何?」
「あきれては、いる」
「ええっ。なんで……」
「なんでか分からないところが問題なんじゃないの?」
ホリウチくんは慌てて昨日からの自分の行動を思い返してみた。かわいい女の子相手でやや舞い上がっていた点があったことは否定しない。でも、いつも通りの行動だ。空き時間にゲームをし、割り勘で食事をして……あっ。
「もしかして割り勘だったから怒ってるの?」
「それだけじゃないけどね」
「えーっ。あとは何……」
「そんなの、自分で考えてよ。とりあえず、約束通り埼玉まで来たからここでさよなら。私は青森を目指すから、ホリウチくんはここから帰って」
「あっ、そういえば連絡先も聞いてないよ。というか、僕も教えてなかったよね。ねえ、青森についたら連絡してよ。メールでも電話でもいいからさ。えーっと、僕のアドレスは……」
電源ガールは苦笑いすると、ホリウチくんに向かって手を振った。「じゃ、さようなら。ホリウチくん、お仕事がんばってね」「電源ちゃん!」
寒空の下、相変わらずシャツ1枚のホリウチくんを置いて、プリウスPHVは北へ向かって走り去った。女の子からデートに誘われるという幸運からスタートしたにもかかわらず、あまりにあっけない幕切れである。
あれ以来、街で水色のプリウスを見かけると「PHV」のマークを探してしまうホリウチくん。しかし、非モテ記者ホリウチはやっぱり、非モテのままの2012年、春だった……。(完)
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