欧州デザイン界お墨付き、くしゃっと丸めて使える地図はどう生まれたか郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2012年04月12日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

「観察すること」が企業理念

 「デザインテーマは遊び心です。普通は『そんなことしちゃダメ!』と禁止されている丸めてポイをできる自由さといいますか。印刷に失敗した紙はもったいないなと思いながらも捨てるでしょう。しかし、この地図は丸めても再利用できるところがミソなのです」

 ユニークさに脱帽。さてこんなデザインをするパロマー社はどんな会社なのか?

パロマー社の商品展示風景

 1956年設立のパロマー社、クランプルシティマップ(全31シティ)だけでなく、望遠鏡、顕微鏡、地球儀、拡大鏡などの商品もある。一見すると、光学製品開発の会社だが、そのコンセプトは「観察すること」だという。

 「パロマー社は光学をテーマにした商品をデザインしますが、それは私たちの商品が『世界を観察し包括的に理解したい』という欲望から始まっているからです」

 インタビューは英語で行ったのだが、Cristinaさんは「in a desire to observe and comprehend the world(世界を観察し包括的に理解する)」と表現した。“オブザーブ(観察する)”、そして“コンプリヘンド(包括理解)”とは何だろう?

 「デザインを時間と空間という視点から考えることです。ふとしたヒントを時間と場所で広げます。そこに“人間のナマの行動”を入れます」

 彼女の言葉を解説したい。私はそれを「Time、Place、Actionの発想法」と名付けた。

TPAの発想法

 「Time(時間)」「Place(場所)」「Action(動き)」で発想を広げていくアプローチ。TPOでもTPPでもなく、TPAである。地図を例にとってみよう。

 地図には「過去と現在と未来」がある。今の街はこうだが、過去の道や建物はどうだったか、未来はどうなるか? 過去と現在の接点を考えていくと、さまざまな地図が生まれる。例えば、現在東京に残る「江戸の遺跡マップ」も作れるし、年々消える「昭和の建造物マップ」も作れる。ありうる未来ということだと、縁起でもないが、もし東京を20メートルの津波が襲った時の「浸水予想マップ」が作れるなら、今ならニーズがあるだろう。

 そこに人の動きや行為(Action)を重ね合わせる。江戸の遺跡マップなら、あえて和紙に地図を印刷して昔の雰囲気を楽しむ。もちろん和紙はかなり丈夫にしておこう。昭和建造物マップでは、道路や建造物の竣工年月や建築情報を印刷し、観察記録を書き込めるスペースを作ると街めぐりが発見の旅になる。東京の浸水予想マップは耐水素材で作り、もしもの時に防災頭巾や浮き輪になったら一石二鳥だろう。

 クランプルシティマップには、街を歩く時間の経過で慣れて地図いらずになるTPAがある。

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