借金大国日本で“踏み倒す人”が急増している理由窪田順生の時事日想(3/3 ページ)

» 2012年04月10日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]
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水道料金の「過払い返還」を求めた生活保護受給者

 関東地区の鉄道事業者11社局とそのハウスエージェンシーで構成される関東交通広告協議会の「交通広告調査レポート2011」によると、車内広告を見ることにより、5割以上の乗客がその後の買い物行動に影響を受けているという。

 言われてみると、確かにいろんなところで「影響」が出始めている。

 4月5日、さいたま市は同市緑区役所の福祉課職員3人が、生活保護受給者の男に脅されて交通費名目で不適切な公金を支出していたと発表した。

 きっかけは2011年5月、生活保護を受けていた無職男性(53)が親族とともに、福祉課を訪れてこんなことを言い出したことにある。

 「生活保護受給者は水道料金が減免されるという説明がなかったため払い続けてしまった。どうしてくれるんだ」

 とんでもない因縁だと思われるだろうが、言っていることは過払い返還請求と同じ理屈だ。

 結局、クレームは4時間にわたり係長は土下座。その後も市公用車で10回程度送迎したり、虚偽の決済書で約1万9000円を捻出させたりしたが、男性らの怒りはおさまらず、係長が自腹で3万円、課長が自腹で2000円を差し出したという。

 財務官僚は金融工学に精通しているが、こういう「現実」に疎い。

 日本人は基本的におとなしいので、どんなにろくでもない政治をやっても、暴動を起こさないしテロにも走らない。消費税が10%に上がっても文句を言いながらもマジメに払うだろう。しかし、「払い過ぎは返してもらうのが当然」としつけられた人々が本当に恐ろしいのは「納税後」からだ。

 「税金払い過ぎ返還請求」の嵐がくる前に、野田首相は消費者金融業者からそのへんをたっぷりと教えてもらった方がいい。

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


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