北朝鮮の“人工衛星”打ち上げが意味すること藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2012年04月09日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 “人工衛星”の打ち上げをあくまでも強行する姿勢の北朝鮮。日中韓3国の外相会談が行われ、北朝鮮に自制を求める考えで一致したものの、打ち上げてしまったらどうするかでは意見の一致をみなかった。国連安保理において北朝鮮を非難する声明を出そうとする日本や韓国、それに対して慎重な中国という構図である。

 北朝鮮側は「衛星の打ち上げテストをすることにとやかく言われる筋合いはない」という姿勢を崩さない。それに、「もともと打ち上げを表明していたのだから米朝合意にも反しない」と主張する。もしこれで各国が北朝鮮制裁の強化に踏み切れば、北朝鮮はさらに核実験をして、お得意の「瀬戸際外交」を繰り広げるかもしれない。

 それでも北朝鮮をめぐって事態が大きく動くことはない。米国を始めとする関係国にとって一番困るのは、北朝鮮の崩壊だ。もし金正恩体制が崩れるようなことがあれば、朝鮮半島のバランスが一気に崩れ、その結果、余計な緊張を生む可能性があるからである。

 中国の直接的な脅威は、北朝鮮から難民が流れ込むこと。さらに北朝鮮の核の行方だ。もし韓国が北朝鮮の核を手に入れるようなことになれば、ミサイルの照準は中国に向けられるかもしれない。さらに朝鮮半島が核武装すれば、日本が核武装する可能性が高まる。日本は、その意思さえあれば容易に核兵器保有国(ミサイルという運搬手段も含めて)になりうるからだ(この問題は、日本人の感覚と外からの見方は大きく食い違うところ。ここはあくまでも中国から見た場合の話である)。

 それだけではない。もし北朝鮮が崩壊して、南北統一ということになれば、駐韓米軍が中国との国境近くに配置されることにもなりかねない。韓国軍だけならともかく米軍まで国境の向こうにいるという事態は、中国としては何としても避けたいところだ。

 南北統一を唱える(最近は声が小さいが)韓国にとっても北朝鮮崩壊は、あまりにも負担が大きすぎる。報道によれば、韓国と北朝鮮のGDP(国内総生産)は2009年で37.4倍というから、現在ではほぼ40倍の差があると見ていいだろう。人口は韓国が2倍というから、1人当たりGDPでは20倍の差があることになる。もし韓国と北朝鮮が「統一」されたら、韓国人の1人当たりGDPは計算上は3割ぐらい低下する。このショックは並大抵ではない。

 シンガポール開発銀行の試算によると、韓国が負担しなければならない「統一コスト」は10年間で数百億ドルから1兆ドルに達する。かつて西ドイツと東ドイツを統一した時も西側の負担が大きかった。しかしこの時の東西格差は5対1ぐらいだから、北朝鮮とは大きく異なる。とりあえず韓国政府は500億ドルぐらいの統一資金を積み立てることを考えているようだが、そうした準備が整う前に北朝鮮が崩壊するようなことだけは避けたいと考えているだろう。

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