「JRの都合で列車を止めたんだから、なにか補償があってしかるべきだ」と言うのである。そして周囲の若者には「私たちが交渉するからここを離れないように」と呼びかけた。数を頼もうと考えているようだ。
実はこのあと、全車指定席の臨時列車があって、それは打ち切りにならなかった。しだいに天候が回復したため、大幅に遅れても先へ進む。ただし満席だ。彼らはその列車に自分たちも乗せろと言う。男性客のひとりが「無賃送還」という単語を使った。多少はJRの規則を知っているようだ。しかし間違っているのだが……。
駅員が「青春18きっぷにはそのような規定はないのです」と説明するが、男性はもう引っ込みがつかない。なんとかしろ、上司に電話しろと詰めより、主張を押し通そうとしている。
私はたまりかねて「駅員さんが正しいし、だいいち現場の彼らにその権限はない。彼らの処置が正しい限り、彼らの上司が電話で起こされたって同じ意見だろう」と言ってみた。この男性客だってそれなりの役職だろうし、正しいことをした部下の決定を覆す道理はないということくらい分かるはずだ。
すると彼はこう返してきた。
「いやね。私たちはいいんだよ。だけど若い子たちが気の毒じゃないか」と。
ルールは理解しているが、みんなのためにがんばって交渉してるんだよ、とでも言いたいらしい。大人なら、若い人にルールをきちんと理解させるべきだと思うのだが……。
もう話は通じないと悟り、私はその集団から離れた。駅員に「僕は彼らとは行動しない。だけど始発までホームのベンチにいさせてほしい」と願い出て許可を得た。街は真っ暗だったし、明るいホームでマンガでも読んでいれば、ときどき夜行の貨物列車を見物できる。始発までの楽しみができたと思った。
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