―― 密から疎へと向かう時代、コンテンツ産業は今後どう変わっていくと思いますか?
伊藤 大前提として、コンテンツ産業を取り巻く環境は、30年前とはまったく様相が異なります。今や世界はつながっている。ネットワークが普及して、情報端末も非常にコンパクトになり、グローバルな情報共有やコラボレーションが日々ダイナミックに行われています。
そして、何かを複製するコストは限りなくゼロに近づいています。レコードをプレスする技術や、高価な印刷機を持っていなくても、誰もが簡単にコンテンツをコピーすることができる。どれだけ頑張っても、複製権をコントロールすることは難しいのが現実です。
これからは、そこをマネタイズの源泉としない新しいモデルを考えるべき。これだけ状況が変わっているのですから、昔の前提をもとにして今後のモデルを模索するのは無意味だと考えています。
コンテンツは、使えば増えるという特性があります。製造業であれば、プロダクトを作った分だけ原材料を消費します。一方、コンテンツ産業や知識産業は真逆の性格を持っています。10枚絵を描けば、その分自分のスキルが減っていくわけではなく、描けば描くほど経験値と能力が高まって、できることが増えていくのです。
しかも、コンテンツは足し算ではなく、掛け算で増えていきます。いかにいろいろなものを組み合わせていくかが重要で、まったく違うものを掛け合わせることによって、新しい地平が見えてくる。
例えば初音ミクは、音楽とイラストレーション、音楽とダンス、音楽とファッションなど、多様な掛け合わせを生み出すハブです。1つ1つの点は小さくても、全体の面は大きな広がりが生まれています。既存の枠組みの中だけで考えていては、こうした動きを支えていくことはできません。
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