“のぼらない”のも粋? 東京スカイツリーの楽しみ方郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2012年04月05日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 東京スカイツリーは“下町トランスフォーマー”である。

 パキン、パキン……と伸びて、下町を商業施設「東京ソラマチ」へと変える日本一のノッポの塔。根っこは太く、見上げると首が痛く、キラキラまぶしい。迫力も気合いも十分。ふもとからは下町商店街が放射線状に延びて、隅田川やその支流にかかる橋はどこも撮影スポット。5月22日のオープンから1カ月以上前の平日昼間でも、オノボリサンでいっぱいだった。

 スカイツリーは、初年度3200万人もの集客を期待する町のシンボル。どちらかと言えば東京23区では脇役だった墨田区にとって、商業も観光も盛り上がる100年に1度のチャンス。地元の商工業の期待もテッペンまでのぼっているだろう。

 スカイツリーの近くで、こんな標識を見つけた。

道路標識は「業平橋駅」のまま

 「ここはまだ替わっていませんね」

 スカイツリーを巡る取材小旅行のガイド役をお願いしたのは、墨田区観光協会でメディア開発を担当する斉藤亜裕美さん。彼女がスカイツリーのふもとにある業平橋で指差したのは交通信号標識。3月17日から東武伊勢崎線の業平橋駅は「とうきょうスカイツリー駅」と名称を変更したが、標識は「業平橋駅」ともとのまま。

 実はこれが、観光客がスカイツリーにのぼってものぼっても、地元は潤わないかもしれないというジレンマを象徴している。斉藤さんは地域商業の未来を憂いていた。

 「とうきょうスカイツリー駅の改札と、スカイツリーや東京ソラマチは直結しているんです」

 観光客のお目当てはもちろんスカイツリーへの登頂だ。その後は食事やショッピングだろう。しかし、それは東京ソラマチの商業施設で済んでしまうのだ。そのため、駅の外に出たとしても業平橋周辺から上を見上げるくらいになりそうだという。

 墨田区の観光を考えると「地域を歩いて食べて買ってほしい」、あえて言えば「のぼらずに眺めてほしい」のだ。『古今和歌集』の歌人の1人として知られる在原業平が今この橋に立ったら、こんな歌を詠んだだろうか。

 「墨田区に たえてツリーのなかりせば ビジネス機会は のどけからまし(なぜ墨田区にツリーなんてできたのか。いっそなければビジネスであれこれ悩まないのに)」

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.