“節目”は過ぎても、被災地の苦悶は変わらず……報じられないトラブルも相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2012年04月05日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

がれきの処理は進捗せず

 石巻市に入り、震災前からの知り合い数人を訪ねることができた。彼らはいずれも同市に生まれ、そして現在もこの港町で生計を立てている人たちばかりだ。彼らの口から異口同音に出てきた言葉は「地元でカネが回らない」ということ。

 新聞やテレビでは、仙台市が“復興バブル”状態にあると報道される機会が多い。実際、仙台の繁華街は全国から集まった工事関係者を中心に、さまざまな業種の人たちが行き交い、活況だ。しかし、石巻やその周辺の市町村は依然として高い失業率が続き、「日雇い仕事やアルバイトで生活をつないでいる人が少なくない」(地元商店主)

 仕事のある他の地域に行けばよいのでは、そんな声が聞こえてきそうだが、事情は皆複雑なのだ。確かに石巻や他の沿岸地域からは人口の流出が続いている。しかし、子供の学校、あるいは年老いた親の介護の問題などで、「否が応でも残らざるを得ない人は多い」(同)という。

 今回の石巻訪問では、仮設住宅に関する話をいくつか聞いた。「大手のメディアや地元紙にも載らないが、小さなトラブルが頻発している」(別の商店主)。例えば、けんかや小競り合いが起こる頻度が上がる傾向にあるのだという。被災地の大半は港町であり、気性の荒い海の男たちが多い。震災前、筆者は何度も夜の街で取っ組み合いの喧嘩を目にしたが、「現在は仮設の不便な生活に起因するストレスが喧嘩の発端になるケースが多い」(同)というのだ。

 実際に仮設住宅にお邪魔した経験があるので理解できるのだが、プレハブ製の住まいは壁が薄い。隣家の生活音は否が応でも飛び込んでくるのだ。もちろん、住まいの問題だけでなく、ここに雇用や家族の先行きへの不安感が加われば、生活する人たちのストレスは増す。「喧嘩だけでなく、自殺、自殺未遂の件数も増えている」(同)

 数人の友人たちから話を聞いたあと、筆者は自家用車で石巻市の港近くにある廃車、がれき置き場に回った。

 同市内のがれきの大半は撤去済みだが、置き場にうずたかく積まれた“山”の高さは昨年十一月に同地を訪れた時点とほとんど変わりがない、との印象を持った。

 「がれきが片付かないまま春、そして夏を迎えると、昨年と同様に自然発火のリスクにさらされ、さらにはまたハエが大量発生する」(同)と、同市の多くの人が顔を曇らせた。

 被災各地のがれき処理に関しては、全国のさまざまな自治体が受け入れ方針を発表した。しかし、放射線を警戒する根強い反対意見のもと、これはほとんど進捗していない。

 東電と政府のあまりにずさんな放射線対策への不信感から、がれき受け入れへの反対が根強いことは承知している。だが、実際に被災地の“山”を直視すると、先に触れたような被災者の言葉が頭の中を駆け巡るのだ。

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