自治体が情報公開しなければならないワケ藤田正美の時事日想(1/3 ページ)

» 2012年04月02日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 「情報」については、このコラムでもたびたび取り上げてきた。そして最も問題なのは、「情報の共有」ということに関して、お役所があまりにも無頓着であることも指摘してきた。

 先日、NHKの『橋が道路が壊れていく…… インフラ危機を乗り越えろ』という番組を見た。その中で「ほとんどの自治体が自分たちの管理するインフラがどのような状況になっているのかを把握していない」という増田寛也前岩手県知事の発言を聞いて驚いた。そして現在あるインフラを維持補修していくだけでも全国で10兆円をはるかに超えるカネがかかるのだという。

 もっと驚いたのは、「調査してもその内容を住民に知らせない」と答えた自治体が少なからずあったことである。もし自治体に十分なカネがあり、市民に知らせるまでもなく修繕したり、場合によっては新しいものにできるのであれば、それもよかろう。しかし程度の差こそあれ自治体の財政は火の車である。つまり維持補修するために潤沢な資金などどこにもない。

 そうなると、最も大事なことは自治体の状況がどうなっているのかを住民に丁寧に説明することだ。そしてインフラのも今あるものをすべて維持することはできないこと、町作りも従来の考え方では将来の展望が描けないこと、人口が減る中でどうやってコンパクトにしていくかを考える必要があることを納得してもらわなければならない。

 すでにそうした努力をしている自治体もある。その担当者は、「最初は寝た子を起こすなと言われた」と語った。これは原子力災害に対する考え方とまったく同じである。

 内閣府原子力安全委員会が原子力防災指針の見直しに着手していた時、当時の原子力安全・保安院の広瀬研吉元院長は防災指針の見直しに反対した。新聞報道では「寝た子を起こすな」と言って反対し、結果的に安全委員会は見直しを先送りしてしまったのである。ここで見直しをしておけば、福島第一原発の事故はなかったかどうかは分からない。しかし少なくともリスクについて住民にもっと情報を与えることにはなっただろうと思う。

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