スティーブンスティーブンが目指すアニメと広告の融合とは(前編)神山健治×博報堂(4/4 ページ)

» 2012年03月30日 08時01分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]
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アニメーションの作り方が変わろうとしている

――アニメーションの現状についてどのように認識していますか。

古田 アニメーション業界はCGイノベーションによって、今また新しいステージに突入しようとしています。この秋公開予定の神山監督脚本の『009 RE:CYBORG』がその象徴です。

神山健治監督最新作『009 RE:CYBORG』製作発表PV

神山 『009 RE:CYBORG』は『サイボーグ009』を原作としているのですが、現代にゼロゼロナンバーサイボーグがよみがえるという設定でまったく新しいアニメーション映画を制作しています。

 今まで私が作ってきた作品と大きく違うところは全編フル3Dであるというところです。立体視でもありますが、キャラクターそのものがCGで、手描きのセル画が存在しない作品です。見た目はセルアニメーションに見えると思うのですが、3DCGでキャラクターから舞台まで全部作る手法をとる作品になります。

 日本のアニメーションは海外のファンにも受け入れられていますが、昔から続いている手描きのセルアニメーションを強く望まれているんですね。日本のアニメーション業界も、ピクサーに代表されるような人形っぽい立体感のある3DCGのキャラクターでアニメーションを作ろうとはしているのですが、やっぱり圧倒的にセルアニメが求められています。

 そして、日本のアニメーション業界が得意なのもやっぱりセルアニメなんですね。今、現場の最先端で仕事しているスタッフも基本的にはみんな手で描いてきています。それが得意であると同時に、そういったノウハウを持ったスタッフが今、業界の大半を占めているので、その技術を使わない手はないなと。

 まったく未知の挑戦というのは面白いのですが、産業として今まである程度基盤ができているのでCGを活用するようになっても、セル画風のアニメーションを生産していくことが消費者側からも求められていて、それは数字の上からもはっきり出ています。そこでセル画風のCGアニメを制作していく方法を身に付けていこうということでそういう方向になったということです。

 3DCGに活路を見出している理由はいくつかあります。

 アニメーターはどうしても絵を描くスキルが高くないとできない仕事です。うまい絵が描けることが最低条件で、それに加えて、監督の要望に応えて実写で言う“カメラを置く技術”が必要で、さらには役者であることも望まれます。

 ただ、これは制作上の理屈なんですね。理屈以外の部分でいくと、アニメーターは絵描きであると同時に、役者であり、カメラマンであり、そもそも1人の作家なんです。そういう人を20〜50人、場合によっては100人集めて映画を作るわけですが、100人作家がいると想像してみてください。現場は大変ですよ。

 しかし、まだ100人スタッフがいたうちは良かった。わがままを言いながらも、最終的に作品はできあがったので。しかし、時代が変わって、厳しい条件をクリアして、ようやく1人のアニメーターとして主戦場に送り込める状態になったという人材が今、枯渇してきている。これだけ厳しい仕事を自分で選びたいという人が、今の時代にはもうそんなにいないんです。

 「手描きのセル画、マンガの延長線上のキャラクターを見たいんだ」と言われる中、本当にみんな苦労して、寝ないで作るといった状況になってきています。どこか省力化しないと、もう限界なんじゃないかという時、一番好まれる絵をまずCGで作ってしまえば、絵を描くことそのものに苦労しなくてすむんじゃないかと考えました。

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』

 もう10年以上経ちますが、私が『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』を作った時、3DCGで制作する方法はないかとプロダクション・アイジーに提言したんですね。プロダクション・アイジーはその当時、CGに時間もお金も割いていたのですが、キャラクターをセル画風の3DCGでやることに対しては、押井守監督や石川光久社長は反対だったんです。

 それは当然で、社員のアニメーターをたくさん抱えているので「その人たちの仕事がなくなっちゃうんじゃないか」「そもそも手描きの良さを3Dで表現することは無理だよ」と、10年前はそう考えられていたんです。

 しかし、10年経って、主戦力のアニメーターが10歳年をとるわけです。プロ野球と同じで、10年前は3割打っていたバッターが、10年経つと2割2分くらいになってくるわけです。その人たちでそのまま一生いけるかというと、当然いけない。また、プロダクション・アイジーでは10年前には年間10人くらいアニメーターを採用していたとするなら、今は2人とか4人になってしまいました。

 そういう状況の中、「求められているセルアニメーションを制作していく方法としてどういったことがあるか」と考えた時、「3DCGで分業化すればいい」という結論に至りました。絵がうまい人は、相変わらずうまい絵を描けばいいんです。それをCGに流し込んで動かす、キャラクターを作るという仕事はありますし、動かすことが得意な人は、似せる手間が省けるわけです。

 鉛筆というツールではなくなり、PCでマウスをクリックしながら3DCGソフトを使うということで、「今までの仕事とはかけ離れたものになってしまうのではないか」という心配が、現場からも当然起こりました。しかし、それは基本的にスタッフ個々の苦しんでいる状況を取り除くツールでもあると考えてほしいということで、大きくシフトしていくことが可能になったという感じです。

 まあ、これは実際には、『009 RE:CYBORG』の制作を請け負ってくださっているサンジゲンの現状であって、プロダクション・アイジー内では、まだまだそこまで行っていませんが。

『アバター』

古田 1つ、面白いデータがあります。日本が目指す3DCGは何かと考えた時、ジェームズ・キャメロンの映画『アバター』(2009年)のようなリアル系を目指そうとしても、日本ではそこまで予算を投下できません。『アバター』は3DCG含めた制作費が数百億円と言われていますが、日本のテレビアニメの1話が『アバター』の何秒でできるか計算してみたら、『アバター』5.5秒で日本のテレビアニメが1話できてしまう状況です。

 「同じものを作って勝つぞ」みたいな決意をするのもいいのですが、もう少し別のやり方があるだろうということです。それなら世界がリスペクトしているセル画風のアニメーションを3DCGで作っていくのは本当に明るい道だと思います。

 →「現場に“共犯者”がいないと良い作品はできない――アニメと広告は融合するか(後編)」に続く

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