スティーブンスティーブンが目指すアニメと広告の融合とは(前編)神山健治×博報堂(2/4 ページ)

» 2012年03月30日 08時01分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

広告業界とアニメーション業界が組みにくかった理由

――お互い別の会社でも組めるとは思うのですが、会社としてつながらないといけなかったのはなぜですか?

古田 別の会社でも、恐らく一過性のものとしてはできると思います。しかしそうすると、プロジェクトやキャンペーンと言われるものだけで終わってしまって、「いい仕事したね〜」と関係者だけは達成感があるものの、世の中に対しては一過性の影響しか与えられません。

 会社になるということは、戦略を10年単位で考えていくことになります。その場だけみんなをつなげて幸せにしたよみたいな話ではなく、10年後に何がどうなっていると良い世の中なのかを考えられる。そうした大きな創造力を働かせられるメリットが大きいので、会社体にしました。

――今までこういう形の会社はなかったと認識されていますか。

古田 少なくとも広告業界とアニメーション業界がここまでがっつり組んだというのは古今東西ないと思いますね。

――なぜ組めなかったのでしょうか。

古田 理由は2つあります。1つ目は制作に関する時間軸の違いということ、2つ目は企業同士で向き合う組織が違っていたことが挙げられます。

 1つ目の制作の時間軸の違いですが、例えば、15秒のCMを作るとしても、アニメーションだと準備期間を含めると2カ月くらいは必要です。一方、私たち広告業界では企画が決定してから最後のオンエアまで、早くて2週間くらいで作ることもあります。この時間軸がまったくマッチしないんです。

神山 アニメーションは基本的にすべてが作りものなので、オーダーをいただいてから、そのオーダーに応えられるスタッフにどういった人間がいるかなどを精査してデザインに入り、デザインから絵コンテを起こし、絵コンテから各カットに適したアニメーターを手配して、とやっていくと、どうしても2カ月くらいかかってしまうんです。

 撮影の段取りでの時間のかかり方は実写CMと同じだと思うのですが、アニメーションだとまったく白紙の状態から絵を起こしていく作業が必要なので、それに一番時間がかかってしまいますね。

石井 テレビシリーズは1話22分前後で1〜2クールというスパンで放映していますが、単純に時間で割ると、今厳しい現場だと1話あたり、1カ月弱で作っています。理想を言えば1話あたり3カ月という時間が欲しいのですが、それを無理やり当てはめれば、2週間でテレビCMも作れるのではないかという目算でよく発注をいただきます。

 しかし、実は第1話ができるまでの間、キャラクターはもちろん、企画やシナリオ、設定といった話全体を作るために、どんな作品でも半年から1年はかけているはずなんです。やはりその部分がないと、15秒という尺の中では実在感があるように思っていただけないので、2カ月でも、期待に添えられるような15秒のCMを作るのは厳しいですね。

古田 スティーブンスティーブンでは“バックキャスティング”という手法でスケジュール問題の解決を試みました。結果から逆算する方法ですね。

 最終結果をまず決めて、そのためにはどの時点で誰が何をやるのか、クリエイティブディレクターは得意先と何を決めておかなければいけないのか、営業は何を決めておかなければいけないのか、同時に石井プロデューサーと連携をとって、アニメスタジオ側は何をやっておかないといけないのか、ということを時系列を逆読みして話すようにしました。これによって、時間軸のずれをだいぶ解消できました。

“バックキャスティング”によって時間軸のずれを解消した(C)2012 STEVE N' STEVEN Inc.All right reserved.

 2つ目の企業同士の向き合う組織が違うというのはどういうことかというと、通常神山さんや石井さんが広告会社と仕事をする時は映画出資を担当する組織と向き合います。

 一方、私はクライアントと向き合って、キャッチコピーを書いたり、クリエイティブプランを作ったりしていたので、今まで神山さんや石井さんと接点がなかったんです。ここがつながったことによって、冒頭にお話ししたように顧客と観客をシームレスにつなげることができるようになりました。

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