ITで震災からの復興を果たすために大切な3つのこと中村伊知哉のもういっぺんイってみな!(3/3 ページ)

» 2012年03月29日 13時53分 公開
[中村伊知哉,@IT]
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「自粛を自粛しよう!」

 復興は新しい悲願。やり遂げなければならない。だが、その前に、大敵がいる。

 自粛モードだ。

 それは、震災で発生した問題ではない。ここ10年以上、日本にまん延する「一億総びびり症」だ。縮み指向、ともいう。まずいことが起きると、じゃやめとこ、締めてしまおう、となる安全志向。そして自縄自縛で動きが取れなくなる。そんな情勢が続いている。

 それが震災で悪化した。震災後、被災地以外の土地で、集まりや遊びを自粛し、下を向いて歩くのが礼儀のような空気が立ち込めた。テレビのCMもしばらく自粛されていた。復興に当たってはこれが最大の敵だと考え、僕が会長として2011年5月に 取りまとめた知財本部コンテンツ調査会の報告では、「自粛を自粛する」という文句を数度にわたり書き込んだ。空気を換えたかったのだ。

 2005年の姉歯問題。建築確認を厳格化すべく「建築基準法」が強化され、全国的に建設業が冷え込み、景気減速につながった。金融でも「貸金業法」の規制を強化し、中小企業の資金繰りが厳しくなるという事態も発生した。

 対面販売以外で医薬品を販売することを禁止する「薬事法」の2009年改正も、ヤバいことは取りあえず締めとこう、という流れの結果だ。官製不況という言葉があるが、官が勝手にやったんじゃない。民が望んで自らを縛ったのだ。

 「青少年がケータイを使うのは百害あって一利なし」。2007年、福田首相の見解は「青少年インターネット環境整備法」の制定、そして地方自治体の条例による規制につながった。ケータイは危険であり、使わせないのがよいという空気が今も漂っている。

 2009年のインフルエンザ流行も不思議な様相をていした。なぜか日本だけ、老若男女がみなマスクを着用する異様な光景を全国で見せ、海外からは日本はそんなに危険な状態なのかと受け止められた。

 震災はそうした重く湿った空気のもとで発生した。

 不幸な事態を悔やみ、被災者を おもんばかって頭を垂れることはうるわしい。安心、安全を志向し、万全の対策を立てることは正しい。でも、そのために どれだけの社会コストをかけることが適正かということも心得ていないと、縮こまりが進み過ぎて、世間がコチコチに固まってしまう。安心・安全にコストを掛けることは今後の世界のモデルになり得る。だけど、安心・安全過ぎて身動きが取れないのは、新たな不安となる。

 私が関わっているプロジェクトでも、地震直後にデジタルサイネージの点灯を自粛したり、デジタル教科書の推進に不安が表明されたりしていたのも、個別の理由の皮をむいていくと、結局「何となく」やめておこうよという根拠のない消極に突き当たる。

 空気を換えたい。特効薬はないかもしれん。私にできることは、元気の出るプロジェクトを前に進めていくことだろう。迷ったら、やってみようよ、そんな具合に。

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