社会保障の給付制限抜きの増税論議は正しいのか?藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2012年03月26日 07時59分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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社会保障の給付制限を論議すべき

 ただ、この「姿勢の問題」について、1つ大きな問題がある。民主党がしきりに言う「5%分はすべて社会保障に使う」という言い方だ。「1%分(国税で約2兆円)は子育てなど新しい政策に使い、4%分は現在の社会保障を維持するために使う」と言う。

 「社会保障を維持するため」というのは要するに、赤字国債でまかなってきた財源を、増税による税収でまかなうということだ。これはごまかしの論理である。新しい政策をやるから新しい財源というのは理屈としては分かる。しかし、従来の政策を維持するというのであれば、それは社会保障費だろうが、国家公務員の人件費、防衛費、公共工事などだろうがすべて同じことだ。要するにドンブリに入れるカネを、借金ではなく税金として徴収するという話でしかない。

 もっと正直になるべきだと思う。GDPの2倍という借金を抱え、その国債がいつ破たんするか分からないという現状。今、一番必要なのは、財政再建の方向性を示すことである。財政再建は歳出の削減と歳入の増加によって達成される(もちろん経済成長を実現できれば、それによる歳入増も期待できるし、ある程度はインフレにもなるだろうから、それによる負担の軽減も期待できる。ただ日本にとって長期的な成長戦略というのは非常に難しいのも事実だ)。

 経済成長は国が主導してできるものではない。国が政策としてできるのは税による誘導(研究開発費の特別措置を取るとか、新しく起業することへの税優遇など)と規制緩和、あとはせいぜい基礎研究分野の充実ぐらいである。

 その意味で、民主党政権がやらなければならないことは、消費税引き上げへの道筋もさることながら、歳出の削減なのだと思う。エネルギー問題では、将来をまかなうエネルギーを考える時、新しいエネルギーという話も重要だが、同時に「省エネ」というエネルギーも重要だという話がよく出る。同じように、歳出削減というのも、見方を変えれば、重要な歳入増加項目なのだと思う。

 もし、70兆円強の一般政策経費のうち1割をカットできれば、それは消費税で言えば3%分に相当する。もちろん歳出カットは抵抗も大きいことも事実だが、それをやらないと財政のバランスを取ることはできない。

 消費税引き上げに関して国民はある程度は仕方がないと考えているといっても、歳出削減や合理化もなしにバランスをとろうとすれば、消費税率は20%にしなければなるまい。さすがに日本の国民もそこまでお人好しではないだろう。そして歳出削減の最大項目は、公務員の人件費でも公共工事の削減でもない。社会保障の給付制限だ。それが国の最も大きな歳出項目であるからだ。「税と社会保障の一体改革」とは、実際には「増税と社会保障の給付制限」ということでなければならない。

 それなのに、野田首相と民主党は、増税の苦い味を社会保障という砂糖でまぶそうとしている。その結果は、見えている。財政再建の道筋が見えず、やがて日本がギリシャ化するということだ。その日が来たとき、政治の貧困の犠牲者になるのは国民だが、それも国民の選択だといって諦めるのだろうか。

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